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映画レビュー:No.682 ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書(原題「 The Post」)

ペンタゴン・ペーパーズ
116分 / アメリカ
日本公開:2018年3月30日
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:メリル・ストリープ
トム・ハンクス
サラ・ポールソン
トレイシー・レッツ
ブルース・グリーンウッド
マイケル・スタールバーグ







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。



靴擦れが痛いから映画館で靴下を脱いだら隣の席のおばあさんが絆創膏をくれた。

▼国家と個人の対立の話
スピルバーグは前作のブリッジ・オブ・スパイが国家と個人、つまり実利主義という非人間的なシステム対民主主義の原理原則=ヒューマニズムという問題提起の話だったけど、本作もその系譜に続いている。
アメリカという"人が作った国"で何がアメリカをアメリカたらしめるのかというとそれはやっぱり憲法だ、という「アメリカの良心」を問う作品。
体制というのはあの手この手で自らの都合のいいように世界のルールを解釈させようとしてくるけれど果たして誰のために原理原則があるのか、その前提に立ち直ることこそが民主主義の根幹なのだという、奇しくも今の日本においてもとてもタイムリーに鋭く刺さるテーマ。
まあ米国においてもベトナム戦争からウォーターゲート事件に至る40年以上前の教訓が今改めて必要とされる情勢なんだろう。危険な時代にこそ表現というものはその力を発揮すると信じたい。

▼映画であることの意識の高さ~テーマとそれを伝える手段の一致
そんな風に書いていると頭でっかちで政治的な作品に聞こえるかもしれないけど(まあ政治的は政治的なんだけど)、脚本、演出、演技、構成によってきちんと"面白い"というのが映画人としてのスピルバーグの流石心得ているあたり。
例えば序盤のニューヨーク・タイムズに遅れまいと超苦労して取材した大統領娘の誕生日パーティーの渾身の一面記事が報道史に残るスキャンダルでものの見事に後塵を拝するとことか、ワシントン・ポスト編集部の議論白熱の編集会議まで見せられていた観客としては「トホホ...」と頭抱えつつ笑ってしまう。
スキャンダルの届けてくれた謎の女性の人物像を一生懸命説明するヒラ社員のことをトム・ハンクスが気持ちよく無視するところとか、メリル・ストリープのあまりにグラグラで頼りない社長描写とか、随所にクスリと来るユーモアが散りばめられている。
笑いに限らず、そうやって観客が"面白い"と感じる場面の設計、語り口の構成が保たれているのは映画としてとても正しいし、その前提があってこそ作品のテーマが観客に届く。
いくらメッセージが正しくても面白くなければ意味がないわけ。なぜならこれは映画だから。

▼登場人物の印象の変化~メリル・ストリープの素晴らしさ
登場人物はみんな第一印象が頼りなかったり、感じ悪かったり、偉業やヒロイズムとは程遠い普通の人として登場するのだけど、そこから全員が物語を通じて変わっていくのが本当に素晴らしい。
特にメリル・ストリープはああいう役どころを初めて観たけれど、手に余る責任に押しつぶされそうな小さい人物をとても上手に演じていて素晴らしかった。彼女は確かに頼りないし個人と立場の間でグラグラに揺れるのだけど、パンドラの箱を開けるか否かの決断を迫られているのだから無理もない。
野心も無ければ決断力も無く現状維持の日和見主義でのらりくらりと家族経営がやっていければいいや程度に思ってたろうに、最悪のタイミングで最悪のところにいてしまった。
緊張を隠すベタッとした引きつり笑いがすっごいハマってる。

▼信念を貫くことの難しさと戦い続ける強さ~難局に向かい合う普通の人々
原理原則という民主主義の正義を巡る話というのは、つまるところ僕たちの生きる現実世界とも地続きの問題提起で、だからこそ我々も彼らの戦いを他人事ではない気持ちで見守る。
法律というのは一度それを是と認めてしまったら底が抜けてしまう。そういう生きるか死ぬかの戦いだからこそ発生するリスクも大きいし、その中の人間的な選択も簡単ではない。視点や立場によって何が正しいかは変わるし、イデオロギーだけで飯は食えない。
メリル・ストリープがアメリカ国民としてではなく家族の会社を守る経営者としての選択をしたとしてもそれは責められるべきでは無いと思うし、信念の一点突破でゴリ押しのスクラムを組むトム・ハンクスは彼だからこそ達成できたことがあるのもわかりつつ僕個人としては少し危険にも映る。
そういう「本当にこれが正しいのか?」という揺らぎの視点は劇中にもしっかり含まれていて、そういう緊張感が事の難易度の高さを際立てる。
リスクや責任を背負ってまで個人の正しさを貫くのはとても難しい。だからといって悪をのさばらせておくわけにはいかない。そういう信念の話。

ラストカットはウォーターゲート事件で、同じく今年公開された「ザ・シークレットマン」に直接的に繋がる。こちらも並べて観ると作品の余韻がより重厚になると思う。
対岸の火事でも、昔話でもない。僕たちの民主主義の話をしている。
日本の報道も、日本の映画業界もこういう気骨を見せてくれ。

★★★★★★★★ / 8.0点



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