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映画レビュー:No.699 馬を放つ(原題「Centaur」)

馬を放つ
89分 / キルギス、フランス、ドイツ、オランダ、日本合作
日本公開:2018年3月17日
監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト
ヌラリー・トゥルサンコジョフ
ザレマ・アサナリバ
タアライカン・アバゾバ
イリム・カルムラトブ







この記事はネタバレを含みます。ご了承下さい。



右目の毛細血管が脆い。

▼エキゾチシズムという映画の楽しみ方
エキゾチシズムってのは映画の面白さの結構大きな要素だと思ってるんで、現代社会でまあ馬を放つことの無い僕らが「馬を放つのか!なぜ!」とこの映画に興味を持つのは至極当然だと思う。
キルギスにはキルギスにしか無い物語があって映画を観ないと知る機会のなかった世界を覗き見れるのは体験としてとても豊か。
岩波ホールでかかる映画にはそういう文化的な面白さを持つ作品が多い。ハリウッドだけが映画じゃないなと、そういうことを改めて確認できる良い映画館。椅子は固くてお金は高いが。

▼牧歌的な世界観と不思議なサスペンス
冒頭の馬泥棒の場面から主人公が全く身バレせずに犯行を完遂しているのを凄くスマートに見せてて「はい、この人演出の腕ある」と信頼できる導入。キルギスのトイレの閉じ込めろと言わんばかりの鍵の付き方。
どうやら主人公は馬を放った時点で目的を達成しているらしく、冒頭以降はその件で馬主や警察らがてんやわんやとやってる裏側でお酒売ってる未亡人のところに通いつめて不倫を疑われるという全く関係ないサスペンスが展開する。
まあ馬を放つかどうかがミステリーになるくらいなのだから合理性、テクノロジーがインフラ的には全く行き届いてないような場所で、わざわざ一言二言伝えるためにえっちらおっちら歩いていったりアヒルや犬にセキュリティさせてたり罪人の罰を集会で決めたり、全体的にすごい牧歌的。
そんな中でもいかにも「財を成しました、馬で」って感じで洗練されたライフスタイルを見せる男が馬泥棒を捕まえようと頑張ってて、そいつの浮きっぷりの違和感なんかがしっかり映画の主題とも通じてて面白い。

▼固有のアイデンティティを巡る話~アンチテーゼではなくノスタルジーの手触り
主人公の動機の根幹にある精神性がテーマなのだけどそこはもろに固有のアイデンティティなのでこっちが理屈として理解できるよりも深い感情なのは間違いない。
文化や風習が失われる過渡期に取り残されてしまう人の話で、それはアンチテーゼというよりはノスタルジーなのかもしれない。流れに逆らうような主張よりも「こういう男がいた」という物語を残しておこうという姿勢を感じる。
まだ合理非合理という段階にすら無いけれど、昔あった価値観が新しいものの流入によって変わっていく場所の話。

主人公は「夢を見た」なんて今どきマジかという動機で馬泥棒に及んだわけだけど、それこそ揺るぎないアイデンティティについての話だからで合理的な社会を生きる日本だと中々描かれないし理解もされないだろうなと思う部分でもあった。
フィルム主義とか、宗教の変遷と女性観の変化とか、馬と人間の関係とか、僕にはどっちが良いとか一概にわからない部分もあるのだけど、主人公の切実な郷愁や時代にコミットできない人間の不器用な悲劇の物語がちゃんと映画の面白さを通じて伝わってきたのが良かった。
キルギス詳しい人とかめちゃめちゃ面白いんじゃないかと思うけど、思い当たる存在がなさ過ぎる。

★★★★★★★ / 7.0点

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