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映画レビュー:No.704 アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

アイトーニャ
121分 / アメリカ / PG12
公開:2017年12月9日(日本公開:2018年5月4日)
監督:クレイグ・ガレスピー
出演:マーゴット・ロビー
セバスチャン・スタン
アリソン・ジャネイ
マッケナ・グレイス
ポール・ウォルター・ハウザー
ジュリアンヌ・ニコルソン










寝て起きて布団から這い出る際に広背筋を痛めた。歳だ。

▼"事実"の正確性ではなく"真実"の多面性を描く話法
こんな何も説明してない副題ならつけないほうがマシだバカヤロウ。

僕は映画を観るまでトーニャ・ハーディングというスケーターがいたこともこういうスキャンダルがあったことも知らなかったのだけど、映画は実際にあった出来事に対して"事実"の正確性ではなく各々の中にある"真実"にアプローチする作りで一本の作品としてとても面白かった。
比較的誰が撮ってもそれなりに面白くなりそうな出来事ではあるのだけど、決して物語を単純化せず映画全体が信用できない語り部に徹することで現実に起きたことに対する一定のフェアさと映画としての面白さの両方を担保する構成がとても上手い。

冒頭から役者の演じているインタビュー映像で始まるのだけど、初っ端からたいへん胡散臭くて面白い。
実際ドラマパートに移ったら「言ってることと全然違うじゃねえか」ってことばかりで終始各々の証言の信用性を皮肉る構造を取ってる。
ただそういうインタビューパートとドラマパートのギャップが最後まで観ると彼女たちの中にある真実めいたものを浮かび上がらせる。彼女たちが建前や自己弁護の裏側でぎりぎり守っている尊厳やアイデンティティに少しだけ触れるような人間臭い余韻があった。
後から自分の都合のいいように物事を脚色して人に話したりというのは誰でもやることで、笑いつつも身につまされる部分も多い。
僕も正直自分の中で「墓まで持っていくという結論を出したので、表向きはこう話します」という事にしている出来事があるし、それに関しては僕が話したことが真実だって感覚になったりもする。

▼取り付く島のないワスプマザーな母親~スポーツと教育について
とにかく主人公トーニャ・ハーディングのお母さんが取り付く島のないワスプマザーで、教育や家庭環境が人間性に与える影響がいかに大きいかとても考えさせられる。
完全にネグレクトだし、そうして自己肯定を得られなかった人が成長すると「全部自分が悪いんだ」と他者に対する責任を過剰に背負ってしまうという負のサイクルに陥ってしまう。
唯一スケートだけが母親からの承認を得る手段となってて、それも主人公の結果に対する強烈な強迫観念に結びついている。
常々持論として「スポーツだけやってきたやつは人間的に未熟でバカに育ちがち」というのを唱えているのだけど、それがとてもわかりやすく描かれてる。

▼常に自分に厳しくいられるわけではないという人の性
彼女はトリプルアクセルを成功させることで初めて母親以外の他者から自己承認や充足感という、幼少時に得られなかったものをまとめて取り返す。
史上初めてトリプルアクセルを成功させたアメリカの女子選手なんててそりゃあ努力だけではどうにもならない領域の話で、やっぱり彼女には才能があったのだと思う。やっとその才能が自分のものだって気づいたというか、誰かのためではなく自分のためにスケートをするっていう当たり前の動機に立ち返れたんだろう。
ただ常に自分に厳しくいられるわけではないのも人の性で、成功への渇望が弱まると元々自己管理のできない人間だったのが競技に影響が出るレベルで完璧に一線を越えてしまう。フィギュアスケートは500gの体重の変化でもパフォーマンスに影響が出るらしいんで、そりゃあ彼女のコンディションなんて安定しなかっただろうと思う。

▼映画としての競技の描き方~競技性のロジックの省略と物語上の意味の担保
フィギュアスケートのような採点競技は素人ほど選手間の明確な優劣を感じにくいので映画向きではないと思うのだけれど、そこを上手くかわして一人の人間の中にある勝因と敗因を示すのがとても上手い。
採点競技ならではの印象評価や審査基準のバイアスに対して彼女がどうアプローチするのかもとても面白いし、そういう諸々を観てたら改めて採点競技は嫌いだなと思った。「お前はみんなの見たいアメリカじゃない」って反吐が出るぜ。

▼キャラクターの描き方の一貫性
出てくるやつが全員サイコパスで、結局全員違うものの見方をしていて相容れない。
普通の人はそういう環境からのエキソダスを図るものだと思うのだけど、そこも他者を信用しない性格形成がされてきたからか狭い人間関係に自閉してしまう。
主人公夫妻は身内と認定した人に超甘くて、結局そうやって甘やかしてなあなあにしてきた関係が最悪の事態に繋がってしまう。
映画が終わって結局じゃあどうしたら良かったんだろうと考えると、やっぱり最初からすべてが間違っていたように思う。
そのくらい一本の映画として過不足無くキャラクターを描ききってて、実話ベースだって忘れてしまうくらいよく出来てる。

▼悲劇と喜劇の入り交じる余韻~人の複雑さや矛盾
最後まで観ると彼女が仮面の裏側でどれだけ人間的に揺れてきたのかが透けて見える。
時間が経ったインタビューでカラッと開き直っている彼女にも良心の呵責や動揺があったんだろう。全体としては人並み外れて普通じゃない彼女だけれど、それでも人並みに動揺が結果に影響している。それも全てを賭けてストイックに目指してきた舞台でのことなのだから彼女の意思の強さでも抗えないほどのカオスだったのがわかる。
彼女が本当にただのサイコパスだったらリレハンメルで靴紐が解けることもなくあっさり自分のベストパフォーマンスが出来たはずだった。

宇多丸はフォックスキャッチャーの評論の中で「アメリカの大富豪やオリンピックの金メダリストという自分とは全然違う人生の人の気持ちが何故かわかる、それが映画を観る理由の一つだ」と言っていた。
本作もまさに人の中にある複雑さや矛盾を感じることができる。もちろん滑稽でヒドい話だと笑えるようにも作ってある。
映画的な面白さでめちゃめちゃ堪能した。

エンドロールにちょろっとモデルになった人物の本当の映像素材が入ってるんだけど、ここは創作だろうって部分が事実だったりしてびっくりした。
特にボディーガードのデブ。大爆笑。

★★★★★★★★☆ / 8.5点

↓の拍手を押してもらえると苦手な平仮名の「ゆ」が少しだけ上手く書けるようになるのでよろしくお願いします。

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