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映画レビュー:No.705 孤狼の血

孤狼の血
125分 / 日本 / R15+
公開:2018年5月12日
監督:白石和彌
出演:役所広司
松坂桃李
江口洋介
ピエール瀧
石橋蓮司
真木よう子
滝藤賢一
中村倫也
竹野内豊







友人のツイッターアカウントを町山さんのリツイートで知るという。

▼監督の前作サニーがダメダメだったという話
去年のマイベストと今年のマイワーストを世に送り出した白石和彌監督の新作。
前作のサニーがダメダメ・オブ・ザ・イヤーでも白石和彌監督自体の評価には一旦目を瞑ろうという気持ちになれたのは「弾はまだ残っとるがよう」と公開待機中だった孤狼の血に一縷の望みを託せたからで、逆に言えばここがダメなら好きなディレクターがまた一人減ってしまうという、そのくらいサニーの印象が悪かったし、本作には期待してた。

んでまあ結論から言うとこれがもう本当に最高で、すっかり手のひら返して「やっぱ白石和彌は信頼できる」と放言して回る始末。
やっぱりサニーはなにかの間違いだったんだなと。何とは言わないが。

▼バイオレンスのギルティプレジャーがパンパンに詰まった序盤
映画のファーストシーンから早速カタギがヤクザにリンチされてて、正義だとか平和だとかお呼びじゃないぜと言わんばかりにバイオレンスなエネルギーに満ちてる。豚糞食わせて指を切るという挨拶代わりの鬼畜の所業。いとをかし。
どうでもいいのだけどこの映画の登場人物はみんな痛い目合う時にあんまり声を出さない。冒頭のカタギの銀行員すら指切られても「うっ!」くらいで呉市民の忍耐力にビビる。
ヤクザも警察もみんな速攻で暴力に訴える。ガンガン因縁をつけてグイグイ実力行使。ドスやチャカが所構わずわんさか出てくるし、安全な場所なんて無いんじゃないかというくらいそこらでパンパンとおっ始めるし、どっさどさ人死にが出る。
肝心の警察もほとんどヤクザみたいなもんだし、こんな街この世で一番住みたくない。

▼ミスディレクションの上手い脚本
そんな血なまぐさい管轄にピッカピカの暴力童貞・松坂桃李が配属されていたり、一人だけ不自然なくらい際立ってヤクザ磁場に属さない薬剤師の阿部純子が薬局営んでいたり、随所に世界観のスキというか一貫性の無さが違和感になっているのだけど、それがちゃんと全部伏線になっていてとても上手な脚本だと思う。

▼ベテランと新米のバディと映画内の力学のルール説明
ベテランの役所広司がひよっこの松坂桃李に叩き込む形でこの土地での無茶苦茶な理屈をレクチャーしていく序盤はさながら映画「トレーニングデイ」のような面白さ。
役所広司のエキセントリックな決めつけ捜査もヤクザ映画の磁場だと合理性が感じられるのがめちゃめちゃ面白い。松坂桃李が言ってること一個も間違ってないんだけど机上論では何も解決しないのだという超ハードな現場の理屈が勝ってしまう。

この二人の対立というのはつまるところ「手段と目的」のどちらを優先すべきなのかという話なのだけど、この部分の反転が「それはズルいぜ」ってくらい鮮やかでまんまと感動してしまった。
どんなにバカでアホでどうしようもない人間の話でも必ずエモーションを描いてくれるところが白石監督の作品の好きなところだと改めて感じた。それはやっぱり自分とは全然違うと思っていた人間が「自分と同じなんだ」と思える瞬間だからだと思う。

▼ヤクザ映画マナーとその外側にいる僕たちの関係
結局対立こそがヤクザ映画のマナーなのだと思う。ヤクザのヤクザらしさなんて対立ありきだし、公権力もその中で甘い蜜を吸おうとしている。
主人公の役所広司は唯一その構図を俯瞰した上でそのレースに参戦している。彼の毒を持って毒を制すイズムはこの映画の誰よりも純粋なヤクザロジックなのだけどそれはきちんとその対立の外側、つまり安全地帯にいる僕たちを見据えているからグッとくる。
暴力というのは責任が伴うということを描けている作品が良いバイオレンス映画だと思っているけれど、観客として怖いなあと思いつつ安全地帯から楽しんでいるこちらの存在もちゃんと作品内のリアリティに織り込まれていることにハッとさせられる。
そういう深淵から見返される感覚も白石監督映画の持ち味の一つで、やっぱり映画作るのがめちゃめちゃ上手い人だなと思う。

タイトルの孤狼の血の意味が真に浮かび上がる、昭和の終わりから次世代への継承の物語に胸が熱くなった。
ラストにある人物が言う「お互い様でしょ?」から形見のジッポでタバコに火をつける松坂桃李のすべてを受け入れた笑顔に最高にしびれた。

★★★★★★★★☆ / 8.5点

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