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映画レビュー:No.716 タクシー運転手 約束は海を越えて(原題「A Taxi Driver」)

タクシー運転手
137分 / 韓国
公開:2017年8月2日(日本公開:2018年4月21日)
監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ
ユ・ヘジン
トーマス・クレッチマン
リュ・ジュンヨル







ワールドカップはブラジルの優勝を予想してます。

▼ソン・ガンホに対する印象
序盤のソン・ガンホのコミカルな演技がいかにも作劇のためのお約束的コメディリリーフって感じでなんだかあざとくて「あんま好きじゃないなあ」と眉をしかめてたのだけど、そんな彼が巻き込まれて変化せざるを得ないという事態ののっぴきならなさもより際立っていたと思う。
まあ好みからするとソン・ガンホの持つ軽さが苦手っていうのはあって、もう少しドッシリした人物として演じてほしいなって部分はある。すぐちょけるじゃんあの人。

▼光州事件を映画的に"実感"させるアプローチ
基本的にある程度こうなるだろうという方向に進むストレートな物語なのだけど、光州事件という韓国史をより個人の視点から実感できる丁寧な段取りの踏み方がとても良かった。
光州事件を知っていれば主人公が割と早い段階で一線を越えてしまっていることを観客はわかって観ているのだけれど、「事態が深刻になっていく」のではなく「実は深刻な事態だと言うことを主人公が実感する」というサスペンスのプロセスを取っているのが観客の視点とも一致するようで適切だと思う。

▼当事者性の無い主人公の心理的ベクトルを活かした作劇
特に主人公が当事者ではないという部分による感情のベクトルが終盤までドラマに大きく効いている。
彼はそこで起きていることに対して使命感も責任もないどころか別に帰るべき家庭があって、終盤になるまで事態と向き合わず逃げる選択肢を取り続ける。
主人公は直接の暴力の現場に遭遇するまで政府の武力弾圧を信じようとしないのだけど、彼がそうやって「そんなバカな話は信じたくもない」と無意識に現実から目をそらす様は今のメディアと大衆の不健全な関係性にも非常に通じる物を感じてゾクッとした。
信じるという行為は時に危険な思考停止になりうるし、何よりそのとき人はこんな無防備なのかという怖さがある。
観客はみんな光州事件の実態をわかっているからこそ(それこそ映画を観るまで知らなくても冒頭にモノローグで説明されるので)、「なんでこんな危ない状況なのにこの人はわからないの!?」とそのお気楽な態度が暴力によって反転する事態の予感に緊張感を覚える。

▼タクシー運転手というアイデンティティの意味の反転
タクシー運転手というアイデンティティを通じて彼を当事者側に反転させる段取りもとてもきれい。
彼は一度光州を離れるという決断をするのだけれど、とはいえ映画としてまさかこのまま素直に地元に帰るわけがないという観客心理に対して「やっぱり家族は大事」という至って全うな動機を一つ一つ丁寧にクリアしていく。
彼はそもそも家族のためにタクシー運転手を始めた人物で、"生活"のために"仕事"がある人間。だからまず子供の安否を確認して家に帰る準備をする。その時点で彼の中の喫緊の問題が実は巧みに入れ替わっていて、追い打ちをかけるように周到な思い出し演出が彼の気持ちを光州側に引き戻していく。
彼の下す決断も、仕事をして家に帰る、という彼のタクシー運転手としてのアイデンティティの再確認にもなっていて成長のプロセスとしても感動的。決して死ぬ覚悟ではなくあくまで家に帰るつもりというところがすごく良いと思った。

▼名もなき個人の普遍的な善
僕たち一人ひとりにできることなんてとてもちっぽけなものだし何もない日常の中ですら摩擦や軋轢を恐れて事なかれ主義に走ってしまう小さな人間だったりする。
目の前で友達が死にかけていても圧倒的な暴力に足がすくんでしまうかもしれない。
善を成す、義を見てせざるは勇なきなりというのは言葉にするととてもシンプルだけれど、実際に行動するのがいかに難しいかとてもよくわかる。だからこそ一人ひとりが勇気を持って繋いだ希望のもたらしたものに胸が熱くなる。
主人公が英雄という立場を選ばない結末は誰だって善を成すことができるという普遍的な尊厳の現れだからこそグッとくるし、最後に記者会見の報道を知る主人公のカットを映すのはずっと彼を探していた記者に対する映画からの敬意のようでもある。

実録物として今に伝えるべき教訓をしっかり詰めつつ歴史という情報を凄惨な出来事として体感させる映画的ダイナミズムも失わない、バランスの取れた一本。
今観るべきというのはこういう映画を言うんだろうね。韓国映画は本当に安定して素晴らしい。

★★★★★★★☆ / 7.5点

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