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映画レビュー:No.723 ワンダーランド北朝鮮(原題「Meine Bruder und Schwestern im Norden」)

ワンダーランド北朝鮮
109分 / ドイツ、北朝鮮
日本公開:2918年6月30日
監督:チョ・ソンヒョン
出演:ドキュメンタリのため割愛







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




俺がオーバーサイズでルーズシルエットのパンツばかり履くのは「足が短く見えるのは服装のせいですよ」という免罪符を得るためということが発覚。

▼徹底される全体主義~ディストピアSFの趣
ここまで「疑問を差し挟む余地がない状況」を作って初めて全体主義は成り立つという、ナショナリズムを成立させるシステムの完成度に「すげえな北朝鮮」とひたすらビビる。完全にディストピアSFだもん。住む世界が違う。
韓国人の監督が踏み入る北朝鮮は個人単位ではとても和平的なのだけど、国に対しては老若男女もれなくゴリゴリの国家主義に教育されていてその狂気じみた純粋さにヒく。
彼らは自分たちの在り方に批評的な視点を想像することすらできなくて、だからこそ「どうです!いい国でしょ!」という調子でペラペラしゃべってくれる。
監督も相手の懐で地雷を踏まないようにむちゃむちゃ慎重に言葉を選んでいるけれど、たまーにチクッと鋭い質問をしてもそれが意図する皮肉や批評性が伝わってなくて「あっ、話が通じないこの人達!」って場面が割と頻発するのがおもしろ怖い。
「工場で一日中働いて家では仕事の勉強をして、一人の時間とか無くても大丈夫なの?」って聞いても「えっ?帰り道とか一人ですけど、、、」っていう。そういう意味じゃねえ。
とかく色んな角度から国家主義を切り取って見せてくれるのだけど本当にマジで言ってのかって理屈の連続でシュールですらある。
街中にプロパガンダ広告が出ていて戦争中みたいな文言で国威高揚を煽ってるし、大人から子供までもれなく国に仕えている。

▼政治的観点を抜きに面白い被写体たち
そういう政治的観点を抜きにしても単純にドキュメンタリとして魅力的な被写体が多数出てくるんでコメディとしてもむちゃむちゃ面白い。
例えばプロパガンダ広告のイラストを描く画家がモデルの顔を一律で美人に描くので「なんで全員整った美人に描くのですか?」と、裏側に「そういう風にきれいに整った嘘を付くのが本当に市民のためなのでしょうか?」という皮肉をこめて監督が質問するのだけど、答えるおっさん曰く「美人じゃなきゃ描く気にならないから」と単にこの人の趣味で政治思想と全然関係なかったり。
小学校ではカメラに舞い上がっているのか放課後の子供部屋で専門科目ではない教科を張り切って教えだす女教師がいたり、農家に行けば「豊かな生活です!」とうず高く積まれた肥料を溜め込んでる家に招かれたり、全体的にこっちの批評的視点=ツッコミで成り立つ非常に映画的なコメディ描写になってる。国民は至って大真面目ってのが良い。
それ以外でも幼稚舎に取材に行ったところで年長組が総書記を称える歌に合わせて踊る隣で年少組が全然踊れていないという国家主義の発露が絵的にはっきり示されるところは普通に秀逸だなと思った。
とにかくカメラの捉えるものの質がとても高い。

▼映すだけで生まれるカルチャーギャップと異化効果
外部、他者を徹底的に取り除くことで自分たちの思想や思想教育、もしくは本当の意味での個人の豊かさについて疑わないのかも知れないけど、まあ何が大事って僕たちは外部の人間だからやっぱりこの国の在り方には疑問しか無い。
面白いのは世代間でも時代認識に少しだけ熱量の差が見えるところで、冒頭取材していた家族にもう一度場面が戻ってきたところで熱っぽく過去を振り返るおばあさんの後ろにいる息子の気まずそうな顔に少ーしだけ自我のようなものを感じたりした。ほんのちょびっとだけだけど。
ワンダーランド北朝鮮ってタイトルが一番ストレートに皮肉を言ってる気がするけど、そこには諦観や哀れみという監督の優しさからくる同情も感じる。
この手のドキュメンタリとして珍しいくらい被写体に影響を及ぼさないのだけど、それが問題の根深さを表していると思う。
今こういう国があるってことを実際目の当たりにしたらびっくりしちゃうよね。映すだけでここまでのカルチャーギャップが生まれることに衝撃を受ける。

★★★★★★★ / 7.0点

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