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映画感想:No.947 存在のない子供たち(原題「Capharnaum」)

存在のない子供たち
125分 / レバノン / PG12
日本公開:2019年7月20日
監督:ナディーン・ラバキー
出演:ゼイン・アル・ラフィーア
ヨルダノス・シフェラウ
ボルワティフ・トレジャー・バンコレ
カウサル・アル・ハッダード
ファーディー・カーメル・ユーセフ
シドラ・イザーム
アラーア・シュシュニーヤ




この感想はネタバレを含みます。ご了承ください。



菅田将暉とマブダチという夢に続いて今度は窪田正孝とマブダチという夢を見た。

▼肉体的に演出されている貧困描写の凄まじいリアリティ
全編通じて暴力的なまでの貧困描写が続く。
とても肉体的な演出がされているのでフィクションだとわかっていても演じている子供たちが心配になってしまうくらいのリアリティ。

▼子供の人生を支配する因習と貧困
処方箋を使って薬局でドラッグを手に入れ、それを砕いて水に混ぜた水溶液を服に染み込ませる。それを刑務所の親戚に届けてお金をもらう。作った野菜ジュースを路上で売って日銭を稼いだり、兄弟の食事の世話をしたり、重い水を買い出しに行ったり、それら全てを12歳(推定)の少年が担っている。
完全に社会への接点を失っている家族の中で責任を一手に背負っていて、幼くして大人にならなければいけなかった苦労が端々に伺える。教育を受けていないのでストリートの粗野な言葉遣いが身に染み付いているのも苦い。
娘は女になった瞬間価値が生まれるらしく、妹の初潮を一生懸命隠そうとする。嫁に出すと言えば聞こえはいいけどそれは実質人身売買のようなもので、理不尽な因習や貧困のしわ寄せがショッキングなほど子供の人生を支配している。
親は養育能力も責任感も、なんなら愛情も無く子供を生活のために利用していてあまりにも救いがない。
主人公が観覧車の中で見せる「ここではないどこか」を見つめる表情がとても切ない。

▼元の家族と対になるシングルマザーの存在
結局妹が売りに出されるのを止められず主人公は一人で家を出ることになるのだけど、子供なので雇い口もなくふらふらしているところをエチオピア系のシングルマザーに匿ってもらう。
このお母さんも幼児をキャリーバッグに入れてこっそりと職場に連れ込んでは隠れて授乳させているような、かなりギリギリの生活をしている人物。
こっちの疑似家族化していく関係性の中でも主人公は幼い子の親代わりという元の家族における立場と近い立ち位置に収まっていくのだけど、ハードさで言えば以前とさほど変わらない環境の中で主人公が内面化していく感情を考えるとラストのメッセージをとても味わい深かった。

主人公は母親が仕事に出ている間、ミルクを飲ませたり一緒に遊んだりと幼児の面倒を見るようになる。
初めて家に来た日の夜に廃棄のケーキを三人で食べたり、厳しい日常のささやかな幸せの中で主人公は子供を想う親の気持ちに初めて触れる。そこでの羨望とも感心とも取れるような主人公の表情が切ない。

▼畳み掛けるハードな展開
不法滞在者である母親は偽造身分証を得るために金がいるのだけど、提示された金額を用意する術を見出せずイリーガルな手段に出た結果逮捕されてしまう。
家で待っていた主人公と幼い息子の二人はある日急に二人で生活しないといけなくなる。
状況としては結構詰んでるように見えるのだけどこの時点で映画はまだ半分くらいのもんで、さらにハードなサバイバルを強いられる展開になる。

▼主人公が守ろうとする人間的な尊厳~効果的な演出の積み重ねの的確さ
ここからの貪欲に日銭を稼ぐ主人公の努力は凄まじいものがあるのだけど、粉ミルクの作り方が分からず粉のまま幼児に食べさせたり、水が出なくなって二人で氷にミルクをまぶして舐めたりと生活的にどんどん困窮していく様に胸が締め付けられる。
映画としてそこはかとないユーモアを忘れないところも良くて、主人公が兄弟の肌の色が違う件に関して毎回変な言い訳をするところとか思わずクスッと笑ってしまうのだけど、まあ大勢はとても辛い状況が続く。
彼は苦しい中でも人間的な尊厳を守ろうとしていて、男の子を見放さずに二人で生きていく道を探し続けるのだけど、そんな彼が少しずつその重みを背負いきれなくなっていくのが見ていて本当に辛い。抱っこから引き車(a.k.a. スケボーと鍋)、そして遂に置いていくという映像的な演出の段取りもしっかりしていて、特に主人公が一人でドラッグを売り歩くために男の子の足をロープで縛る場面はそれまで離れないようにしていた分だけ痛々しさが何倍にも増して突き刺さる。
あの場面でも最初は自主性に任せようとする良心をきちんと描いていて、だからこそ暴力的な=ネグレクトする親たちと同じ手段に訴えざるをえない皮肉もグッと強まっている。
進退窮まった主人公は最後には男の子を金と引き換える。金ではない物を大切にしてきた主人公も最後には資本主義の原理に負けてしまう。それが切ない。

▼「家族」や「血縁」を問い直す物語
主人公は「育てられないなら産むな」というんだけど、それは生みの親の否定であり、一方で息子を残して逮捕されたシングルマザーへの痛烈なエールのようにも思う。
主人公は金が無いことを批判したいのではなく、愛情を注がない事を批判している。口では「最低じゃねえか」と言っていたけれど、あの母親のことを信じていたように思う。

家族という関係性を問い直す話であり、悲しいニュースの増えた現代社会の子育てについてもう一度原理原則を突きつける物語。
現実はこの映画の残した大きな宿題と向き合わなければいけない。
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