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映画感想:No.949 さよならくちびる

2019年08月19日
映画レビュー 0
さよならくちびる
116分 / 日本
公開:2019年5月31日
監督:塩田明彦
出演:小松菜奈
門脇麦
成田凌
松本まりか
松浦祐也
篠原ゆき子
マキタスポーツ




この感想はネタバレを含みます。ご了承ください。



理髪店で成田凌の写真を見せることになんのためらいも無くなってきた。

▼普通の話を普通じゃなく語る映画監督という仕事
話自体はシンプルなロードムービーなのだけど、演出や語り口がところどころとても変で映画の印象は全然普通じゃない。
個人的にはこれこそが映画監督の仕事だと思うし、普通の人が撮って普通の映画になるよりも良い事だと思う。

▼「3」で成り立っている登場人物の関係性
ハルレオの二人とローディのシマ、三人とも今いる場所を大切に思っているがゆえに本音とは違う距離を保とうとしていて、それが合成の誤謬的に状況を悪くしてしまっているのが苦い。
全員心の中に本当の気持ちがあるのだけど、それが期待通りの結果をもたらさないこともわかっている。あくまで三人は「3」であってその中で「2」になったら誰かが「1」になってしまうことをわかってる。

▼成田凌~理性で自分の大切なものを守る男
成田凌が後悔ゆえに優しい人間を演じててとても良かった。彼も含めて主演の三人は沢山失敗する人なのがグッとくる。
彼は過去の失敗から学んで自分の居場所を大切にしようとしてる。特に性差という境界線に一番理性を働かせていて、音楽的な喜びに私情を挟まない。
今のバランスが壊れてしまうことに一番敏感だし、彼の裏方という役割も含めてとても利他的な思いやりを持った人物。
彼の恋愛を優先しないところはとてもリアルに感じる。友情も、やりがいのある仕事ももちろん大事で、そういうバランスがとても成熟して映った。

▼小松菜奈~傷つくことを選ぶ不器用な女性
小松菜奈演じるレオは自分を大切に出来ないタイプの人で、自分が傷つくやり方じゃないと人と繋がりを持つことができない。とても不器用だし危うい。
でも本当の彼女は純粋だし優しい人で、居場所を探すようにフラフラしているのもハルレオクルーの内情について最も敏感に感じ取っているからということがわかってくる。
ただ他の二人と同様に彼女も彼女で大切だからこそ向き合っていない感情があって、それは間違ってるしゆえに痛々しい。

▼門脇麦~人生のままならなさを表現することの切実さ
現実に生きていると詰まってしまう感情を表現に乗せて羽ばたかせるハルの生き方にもグッとくるものがあった。
喜びと悲しみの総量が等分ではない時期はきっと誰にでもあるけれど、そういう時に心の拠り所になるのが自己表現というものだと思う。
音楽についてはややルーツの掘り下げが甘くて、一般論としての良きものという設定の強度で持っているように感じなくもないんだけど、まあ僕もそういうもので救われてきた人間なので「自明だろう」と言われても納得してしまうところはある。

▼細かいディテールの"普通じゃなさ"
ディテールの描き方にちょこちょこ変なところがあって、それがとても奇妙だった。
ハルレオはせっかくデュオなのにほとんどの曲をユニゾンで歌う。「さよならくちびる」だけはきれいにハモるのでもしかしたら演出として映画のタイトルにもなっている曲の特別感を音楽的に引き立てているのかもしれないけど、普通こういうグループはハモったりするものだと思った。
あとレオがサインを求められてCDケースにサインしたのにはビックリした。普通ブックレットにするだろ。サインしたことないのか。

音楽映画なのだけど音楽が絡まない部分にこそ良さがある不思議なバランスの映画だった。
登場人物を等価に優しく見つめていてだからこそ報われないのだけど、その報われなさも一緒に乗り越えていけるかもれないと、もう一度初めからやりなおしてみようというラストがとても良かった。
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けんす。
Author: けんす。
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