放談主義

映画感想:No.1137 ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから(原題「The Half of It」)

2020/05/22
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ハーフオブイット
104分 / アメリカ
公開:2020年5月1日よりNetflixにて配信
監督:アリス・ウー
出演:リア・ルイス
ダニエル・ディーマー
アレクシス・レミール
エンリケ・ムルシアーノ
ウォルフガング・ノボグラッツ
キャサリン・カーティン
ベッキー・アン・ベイカー




この感想はネタバレを含みます。ご了承ください。




映画.comが配信系の作品をフィルモグラフィーに載せていないのどうにかしてほしい。

▼相互理解と自己発見についての物語
普遍的な相互理解についての物語で、恋愛モノでは無いという冒頭のモノローグの通り結ばれる関係性を結末としないところがとても良かった。
登場人物たちは"愛"という理屈では抗いがたい感情の変化を通じて他者と通じ合い閉塞感を乗り越えていく。多様性についての物語であり、同時に自己発見についての物語でもある。街という狭い世界にとらわれてしまう物理的な閉塞感や学校という同調圧力さらされる精神的な閉塞感など、若さゆえの不自由から開放されていく若者たちを描く。
世界を知ることは時として苦しいけれど、それこそが成長であり人生の豊かさだと思う。経験によって深まる感受性やリスクを犯して掴み取る可能性で何かを見つけようとしなければ人生はつまらない。知ることで世界は広がっていく。

▼ステレオタイプな第一印象から出発する登場人物たち
レポートの代筆で小遣いを稼ぐ才女のエリー、アメフト部の控え選手のポール、クラスのマドンナ的存在のアスターと登場人物たちはそれぞれ一種のステレオタイプ的な第一印象から出発するキャラクターなのだけど、彼らがお互いの個性を発見しあってコミュニケートしていくところがとてもいい。
エリーには母親譲りの音楽的センスが、ポールには家業を手伝う中で身につけた料理の才能が、アスターには孤独の友としての芸術的感性がある。そういうわかりやすい要素以外にもそれぞれが今まで人に見せたことのない自分の側面を発見してもらうことで関係性が深まっていくところが友情を育む過程としてとても良いなと思った。

▼恋愛のままならなさと愛の形の多様性
三者三様に恋愛の在り方が異なっていて、それがそのままそれぞれの成長やアイデンティティの肯定に繋がっているところも良かった。
相手のことをよく知らないまま恋愛をしていたポールは外見やステータスではなく中身で人を好きになることを知る。エリーは初めての趣味の会う友人としてアスターに好意を寄せている。ポールの素朴さ、真っ直ぐさをアスターは好きになる。
ありのままの自分を愛してくれる誰かは世界のどこかにいる。一方で必ずしもその人のことを好きになれるわけじゃないところも恋愛のままならなさであり人生の難しさでもある。そうやって酸いも甘いも知って人は大人になっていく。
失恋は自分を全否定されるような苦しみである一方で誰かに愛してもらえた経験によって「自分は捨てたものじゃない」と思える。人のことを好きにならなければ傷つかずに済むけれど、何もない人生はよっぽど寂しい。この矛盾こそが人生の豊かさだと思う。
物語が終わっても彼らの人生は続く。ラストの前向きな余韻は閉じた世界で閉じた結末を選ばなかった彼女たちのこれからを感じるからだと思う。恋愛が上手くいったらハッピーエンド、上手く行かなきゃバッドエンドなんて物事はそんな単純じゃない。

▼シンボリックな場面設計
とても場面設計の意識が高い作品で、シンボリックなロケーションによって関係性を映画的に語る手腕が素晴らしい。
ここではないどこかに繋がっているけれどどこにも行けないものとして主人公エリーの家には線路と駅のブースがある。主人公の抱える閉塞感の象徴のようでもあり、動き続ける世界に対して動くことを止めてしまった父親の象徴のようでもある。そしてそれがラストにはエリーを開けた世界へと導く架け橋に変わる。一つのモチーフに重層的な映画的寓意が込められていてとても味わい深い。
中国人ということで言語や人種の壁にぶち当たって能力を正しく発揮する機会を失ったまま田舎町で一生を終えようとする父親の姿も娘の価値観に強い影響を与えていることがわかる。だから彼女は知識を信奉しているのだろうし、一方で自らの可能性を否定してしまう。
お父さんは英語の勉強という体で毎日映画を観てるのだけど、フランス映画、サイレント映画と段々学ぶことを放棄するような作品選びになっていくのが笑った。
また「重力は孤独への物質的な反応」という印象的なセリフがあるのだけど、序盤からエリーにとってきっかけになるコミュニケーションは坂の途中で始まる。
一方でそんな彼女に今まで知らなかった感情を与えるポールは常に平面的な横移動の運動で捕らえられていて、文字通り前に進み続ける。ラストにエリーの人生の前進と「経験しなければ見えない感情もある」というポールから学んだ大切な成長がとても美しい伏線回収で映画的に重ね合わせて描かれるところが本当に素晴らしくって泣けた。

▼ポールの素朴なバカさ
ポールはジョックスらしくものすごく知能指数の低いコミュニケーション能力を披露してくれるナイスガイ。ここまでダメなところがダメなままのキャラクターも珍しいのだけど、彼を理想化された男性像として描くのではなく「こういう男性のこういうところが良い」という身も蓋もないバランスで描くところもこの映画の好ましさであり誠実さでもある。
最後までポールとアスターの見ている世界が違うところはちょっと切ないんだけど、そういう恋愛の共幻想は普遍的に世界に溢れているし、それを「なんか違うと気づく」という等身大の成長として描くのは実はとても大事なことかもしれないなとも思う。
彼がいつの間にかアメフト部のエースになっている展開は笑えるとこなのだけど、それは一生懸命何かに取り組んだら人は成長して魅力的になるということだし、一方で彼やエリーがそうやってスクールカーストの評価をひっくり返しても本人たちは歯牙にも掛けないところも良かった。

▼自分の知らない世界を見せてくれる芸術や物語の魅力
孤独の友として芸術や物語を描いているのも良い。アスターの取り巻きに象徴される狭い世界の同調圧力にはSNS時代の人間関係の虚しさが表れていて、共感を欲しがるし人と違うことに不安を覚える人たちばかりが群れている。
冒頭にデートに誘われたことをすぐに晒し上げシェアする女の子や、人気者のアスターに自分たちとおそろいのアイテムをプレゼントしてトレンドリーダーになろうとするグループ、人気取りだけに必死の男子と同じ格好の女子たちの過ごす薄っぺらい放課後の描写など、想像力を必要とせず自分を持たない人たちと付き合うことに虚しさを覚えているアスターはだからこそ自分の知らない世界を見せてくれる物語やその歓びをシェアできるメール相手に惹かれたのだと思う。
厳格な父親の顔色を伺い地元の有力者の息子と交際しているアスターが表現する道を選ぶのも必然性を感じる。出自で何かを諦める必要はない。表現はまさにそういう人にこそ力を与えてくれる物だと思う。

▼"片割れ"~目の前の相手との唯一の関係性
「愛」には正解がないから難しい。100人いれば100通りの形がある。理屈じゃないから人の恋愛を否定することも、自分の感情に抗うこともできない。よく知りもせず突っ走ることは浅はかかもしれないけれどそこから始まる関係もあるし、沢山の知識を持っていても人の心が簡単に理解できるようになるわけではない。
例えば恋愛においては「愛」は誰か一人を選ぶことなのかもしれない。そうなると愛は寛大でも親切でも謙虚でもない。時には選ばれない誰かが出てきてしまう。だから主人公は愛は利己的で厄介でおぞましくて大胆だと言う。
でも「愛」という言葉にはもっといろんな意味や可能性がある。"片割れ"とはたった一人を指すのではなく目の前の誰かとの唯一の関係性のことだと思う。
僕たちの体は一つしかないし時間は二度と戻らない。だから物理的には何かを選ばなければいけないように見えるのだけど、大切に思う気持ちはどれだけ沢山あっても抱えて生きていくことができる。恋人も、家族も、友人も、そして自分自身も、すべての関わりがあって人は成り立っている。

僕たちは愛の為に生きている。関わりがない人生なんてありえないからこそ僕たちは生きていく上で「愛し愛される実感」を必要としてしまう。ただし、恋愛は人生の唯一の至上命題ではない。思い出の中で自分を支えてくれる存在や、乗り越えることで強くなる物語もある。僕たちは様々な関係性によってお互いの人生に意味を持たせている。
この映画はそれに気づくまでを描いた物語。人生は難しいし困難は避けがたいけど、痛みも苦しみもいつか自分の大切な一部にすることが出来るよ。

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