放談主義

映画感想:No.1150 その手に触れるまで(原題「Le jeune Ahmed」)

2020/06/28
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その手に触れるまで
84分 / ベルギー、フランス合作
公開:2020年6月12日
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:イディル・ベン・アディ
オリビエ・ボノー
ミリエム・アケディウ
ビクトリア・ブルック
クレール・ボドソン
オスマン・ムーメン




この感想はネタバレを含みます。ご了承ください。




映画よりも自分の方がえらい、と思ってる映画の感想が嫌い。

▼人は理解し合えるのかと突きつけるような作劇
説明的な描写の少なさがそのまま主人公の他者性に通じるような手触りの作劇。イスラム過激派に感化され傷害事件を起こす主人公をかなりドライに描いている。
どこで主人公に良心の呵責や気付きが訪れるのかなと思って観ていたのだけど、ハッとしたり心を痛めたりというわかりやすい描写は最後まで無い。安易な改心や赦しを用意せず「人は理解し合える!」なんてきれいごとで観客を安心させないところがダルデンヌ兄弟作品らしいリアリズムだなあと思った。
異教徒を敵とみなす主人公の分断的な価値観が観ているこちら側のジャッジにも返ってくるようで緊張感がある。

▼感情移入を拒否する語り口のソリッドさ
英題はヤングアメッドとあって、間違った価値観に染まった若者をその外側にある想像力へ導く事の難しさをひしひしと感じる物語。この映画から「宗教」を抜いて「家族」を足すと『許された子どもたち』になるような気がする。
ダルデンヌ兄弟らしい手持ちカメラのクローズアップというストレスフルな絵作りは今作でも徹底されていて、観客が俯瞰して状況を理解することを拒否するような情報量でガリガリまで説明を削ぎ落とした作劇を見せる。主人公がイスラム教に目覚めた理由や従兄弟になにがあったのかなど想像させるにとどめるバランスがすごい。彼が事件を起こした後の思い切った省略もあえての非ドラマ的な意図を感じる印象的な編集だった。

▼一度信じた″正しさ″を放棄する難しさ
冒頭ではゲーム好きで成績優秀な主人公が純粋さ故に信仰にのめりこんでいることがわかる一方で彼が大人の利己主義に搾取されていることも見えてくる。
主人公の逮捕をきっかけに彼が信じていた指導者は社会的に罰せられ兄も洗脳から覚めるのだけど、それでも主人公の価値観が揺るがないところに問題の根深さを感じてやるせない気持ちになった。
なぜ彼が宗教的救いを拠り所にするのかははっきりと描かれないのだけど、従兄弟の死を通じて彼なりに何かが間違っていると思ったのかもしれないし、一度そうやって信じた″正しさ″が過ちだと認められないから引き返せなくなってしまうのかもしれない。
彼が「これをやれば何かが変わるんだ」とまっすぐ突き進んでいくのが見ていて苦しい。歯ブラシを凶器にしようとするところとか彼の切実さが見えて胸が詰まった。

▼ダルデンヌ兄弟らしいドライさ〜映画で伝えたいことの集約されたラスト
教義さえなければより良い関係を築けた人たちとの関係はことごとく破綻し、ラストには主人公は文字通り痛みを知る。家に侵入しようとした主人公が落ちるところは長回しの効果もあってハッとする緊張感があった。隣の席のお客さんが思わず息を呑んでた。
痛みというのは自らの孤独に自覚的になることであり、他者への想像力でもある。赦すことはいつだって難しいけれど、若者の可能性を信じたいというラストは優しい。
無駄な叙情もなく言うこと言ったらバサッと終わる淡白さもダルデンヌ兄弟らしくて良かった。トコトン非煽情的で、そりゃ映画も短くなるわと感心。

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