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2017

映画レビュー:No.534 バーニングオーシャン(原題「Deepwater Horizon」)

バーニングオーシャン
107分 / アメリカ
公開:2016年9月30日(日本公開:2017年4月21日)
監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ
カート・ラッセル
ジョン・マルコヴィッチ
ケイト・ハドソン








この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




▼御しがたい"怪物"としての石油プラントの表現
実録物なのでもちろん油田爆発事故が起こる事は知っているんだけど、そこまでをまー引っ張る引っ張る。何が起こるかわかっていてもここの描写の丁寧な積み重ねが効いている。主に大きく二つ、物語の空気を作る作劇的意味合いがあるように思う。
まあそれ以外の不穏感を演出するメタファーに関しては正直やりすぎだと思うけどね。笑 コーラが吹き出したり、車のエンジンが止まったり、鳥とぶつかったり。こういうのは一個あれば十分だろって思うよ。笑

一つは「ここで事故が起きたらマジでヤバイんだな」という演出の積み重ね。この映画に出てくる人たちは「この場所で安全に対する配慮を疎かにしたら大変なことになる」というのをしっかりわかって仕事をしている。それが「事故なんて起こりっこねえよ」という楽観と両立しているところが現場の空気って感じで面白かった。ノリは軽いんだけど仕事はしっかりやる感じというか。
出てくる男たちは粗野で汚くて頭悪そうな「こいつら多分この仕事以外何もできないんだろうな」って感じのやつばっかりなんだけど、でも大事な事はわかってるって感じが頼もしかった。ちなみにビジュアル的にはアメリカナイズドされたデブ!って感じのやつがめちゃめちゃ多くて笑える。
彼らが徹底して安全に準じようとすればするほどそれが逆説的にプラントに孕むリスクの大きさを突きつけてくる。しかも意地悪な事に、でっかい海にポツンとある石油プラント、そしてその内部に入ると今度は「こんなん人間でコントロールできるのか?」ってくらい暴力的にデカい機械とちっぽけな人間という、寄る辺無さや無力感、そして逃げ場の無さを強調する描写をしっかり入れてくる。
冒頭のパイプからゴポッと気泡が溢れる感じも含めてどこか怪獣的で、こいつらが暴れたら手に負えないしかといって逃げ場もありませんって感じが何も起こってない時点からだいぶ不穏だった。まあ事故起こるのも知ってるしね。笑

▼人災という側面の強調~ジョン・マルコヴィッチのキャラクターの描き方
そして事故が起こるとわかっているからこそ大事なロジックの積み重ねで強調される「これは人災だ」という描写が緊張感を生むもう一つの要素になってる。これは実は冒頭どうやって映画が始まるのかという点からもその話をする映画ですよとしっかり宣言されてる。
まあここに関してはジョン・マルコヴィッチが魅せる魅せる。あれだけ安全に対して周到な人たちの包囲網を運をも味方につけほぼ独力で突破する。そして油田爆発事故が起こる。事故に関しても「ここからまだ状況が悪くなるのか...」という事態の悪化が段階をおって迫ってくるのがまあ上手いし面白い。
彼のやったことは主人公の言葉を借りれば「希望的観測」で動いた結果なんだけど愚かではあるけれど悪ではないという人間の描き方が良いと思う。なぜなら彼自身も現場にいるのでそこで全くリスクを度外視する程のアホだとあまりにもフィクショナルな存在になっちゃうわけで、そこは彼なりに「大丈夫だろ!」というロジックを持ってる。まあそれは間違ってるんだけど。
そしてその結果ちゃんと現場で自分の愚かさのしっぺ返しをくらうってのも映画としては良いよね。それもあっさり死にましたとかっていう単純な因果応報や「ざまあみろ!」っていう安易なカタルシスにしないで彼の愚かさ、いたたまれなさという一人の人間としての選択と結果を強調する。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」って言葉にあるように彼は取り返しの付かないことになるまで自分のやってる事に気づけなかったけどあなた達は彼の表情から学んでくださいね、とそういう演出だと思う。マルコヴィッチの自分のしてしまった決定的な過ちを受け止めきれないって絶望的な顔が良かった。操舵室で名前を言えないとことか、ムカつくけど気持ちもわかるよ。

▼必要以上には頼れない、頼りになる主人公
主人公のマーク・ウォールバーグは仕事に必要な倫理観も論理的思考も充分に持ち合わせた「この人の言ってること多分正しい」と思える典型的な真面目善玉主人公なのだけど残念なことに立場が弱いので状況を牽引してくれないんだな。まあ与えられた状況でベストを尽くせるタイプではあるんだけど、物事の流れに逆らうほどのヒロイズムは彼にもこの物語世界にも無い。
だからこそカタストロフが起きて立場なんてものが意味を成さなくなってからあれだけ頼りになるんだけどね。周りは火の海!暑い!そんな中で利他的行動!熱い!でも行動は極めて冷静!安心感!という三段論法。

▼イマイチだった所~脚本的な弱さ、描写の弱点、脇役の描き込み
前述したように寓話的な意味付けはだいぶ上手くいっていると思うけど、個人的にはそれでもどうなるかわかっている事に向かっていく話という牽引力の弱さは感じたかな。まあほとんど会話劇だし油組み上げる作業の理屈なんかも丁寧とクドさが表裏一体の部分もある。
加えて事故が起こってからの描写はとにかくデカい擬音が踊りまくるだけいうか熱量や勢いに勝る説得力がもはや用意できないのでドーン!となって、でも頑張る!という展開が大味になっていく感覚は正直あった。単純に撮影も難しかったんだと思うんだけどカメラはグラグラだしカットはポンポン割るしで何をしてるのかわかりにくいところも多々あった。
ただスケールの大きい爆発の絵(=人物がアクションしているところを映さなくてもいい絵)はどれもこれもいちいち絶望的で良かった。
あとマーク・ウォールバーグ、ジョン・マルコヴィッチ、カート・ラッセル以外のキャラが弱いのがもったいない。作劇として生き残った人たちが見ていたもの以上のものは基本的には映さないという方法を取ってるのはわかるんだけど、もっと人が死んでいるというのを直接的に描いても良かったようにも思う。「あの人は死んでしまったのか、、、」というたぐいのショックが起こる出来事に対してかなーーり薄かったのは個人的にはちょっともったいない気がした。

▼映画だからこそ描けるフラットな余韻
あの現場で彼らがどれだけベストを尽くしたのかという「彼らだけがわかっている互いの頑張り」と、組織としての過ちに対する外部からの責任追及(遺族の非難や裁判)を同じバランスで余韻として残すラストは誠実でフラットな視点だと感じる。
彼らだけがわかっている事を当事者じゃない僕達も感じることが出来るのが映画の良いところだとするならば、油田爆発事故という過ちを表す大きな視点と、その中で諦めなかった彼らの活躍という小さな視点、その両面を映すことが出来るのは映画という物語表現ならではかもしれない。
過剰にいい話だったり過剰に苦い話だったりしたらどうしようと思ったけど、良い話でもあり苦い話でもある。そこがこの映画の良さだと思う。

★★★★★★☆ / 6.5点


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