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2017

映画レビュー:No.537 はじまりへの旅(原題「Captain Fantastic」)

はじまりへの旅
118分 / アメリカ
公開:2016年7月8日(日本公開:2017年4月1日)
監督:マット・ロス
出演:ヴィゴ・モーテンセン
ジョージ・マッケイ
サマンサ・アイラー
アナリース・バッソ
キャスリン・ハーン







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。



優しくないやつくっそダサい。

▼価値観を相対化していく脚本の巧さ
冒頭の主人公一家のライフスタイルが本当に楽しそうで「俺も一員になりたい!」と軽々しく感情移入するんだけどロッククライミングのシーンで「あっ!ここまで厳しいのは嫌だな!たまにはゴロゴロしたい!」と一瞬で音を上げる僕の心の弱さよ。でもやっぱり体育会系の出身だからみんなでトレーニングして競い合いながらも頑張ろうぜ!みたいなのはあこがれちゃうな。

運動、教育、娯楽と正しく自立しているように見えた主人公たちの生活が段々と一つの価値観に自閉しているように見えてくる脚本が上手い。
彼らが本から得た知識の殆どが相対的な価値観の中で培われた物で、それを語る彼らもまた「他者」の影響から逃れられなくなっていく。「物知り」ってのはもちろんそれ自体凄いことだけどそうやって蓄えた知識をどうアウトプットするかが人生の喜びかもなと思う。
簡単に言えば「人と話す」ってそういうことじゃん。自分とは違う物の考え方に影響されていくっていう。知識ばかりを溜め込んでもつまらない人間になってしまうよ。

▼"無駄な時間"の大切さ
主人公は「言い分があるなら主張をしなさい。説得力あれば俺も考え方を変えるから」と彼なりに子どもたちの自主性を重んじてるんだけど「お前のその何でも自分基準なところが嫌なの!」という反抗期の息子とは噛み合わない。身内が立派だと辛いな。しかもあいつは自分が立派だと確信してるからなお辛い。
人生は多少遠回りしたり無駄な時間を過ごすのも大事だ。コーラ飲んだり、ゲームしたり、女にフラレたり。
「これしか知らない」という冒頭から「色々あるけどこれがいい」というラストの成長が良い。経験してみないと何が正しくて、何が無駄で、何が嫌いなのかわからない。何が自分にとって"興味深い"のかを能動的に探せる機会は常に開かれてないとね。
長男を送り出すところの会話で父の「死ぬな」って言葉に返す「I want」というセリフが凄い良かったな。もうあんたの言うことを聞くだけじゃないぜっていうささやかな反抗のこもったユーモア感とか、それまでの「わかった」って返事とは真逆の「それはわからないな」っていうニュアンスにこもるワクワク感とか、物語を通じて成長した関係性が見えてグッと来る。

▼主人公の欠点を描く際のわざとらしさ
ただ彼らの自立した価値観を相対的に捉える描写の中に論理的に納得できない普通に悪い行為が挟まれてて、そこがすごく不快だったし描写としても本質とズレてる気がして冷めた。
具体的にはスーパーで食材を調達するとこと娘に屋根に登らせて息子を連れ出しに行くとこ。あれは別に価値観のズレとかじゃなく絶対的に間違ってる行為だと思うから素直に楽しめなかった。葬式に乗り込むシーンにしたってもう少しやりようがあるだろうと思う。
いとこの家のシーンとかロリータの解釈から派生する末っ子との会話はこっちの「一般的」って常識を揺さぶる面白さがあったけど、逆に前述したシーンでは彼らの正しく無さみたいなのがわざとらしく演出されてる気がした。

主人公が何でこういう生活をするようになったのかっていう動機になる部分がすっぽり抜けてるからあの義父とかにロジックで対抗できなくなるんだと思うんだよなあ。そこは作品の不手際のように感じるよ。
あの主人公はもっと徹底的に自分の考え方をロジカルに伝えられる人だと思う。「俺が正しい!」っていう主張の仕方ではなく「こうこうこうだから俺が正しい」っていう風に。
その部分が途中からどんどんうやむやになってしまったのが惜しかった。全体としてはいい話だとは思う。

★★★★★★☆ / 6.5点



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