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2017

映画レビュー:No.543 8mile

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110分 / アメリカ、ドイツ
公開:2002年11月6日(日本公開:2003年5月24日)
監督:カーティス・ハンソン
出演:エミネム
アンソニー・マッキー
マイケル・シャノン
キム・ベイシンガー
ブリタニー・マーフィ




この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




ヨンドゥの「スタカー!」のモノマネを練習してる。

▼ヒップホップというマチスモな文化
MCバトルシーンなんてのはヒップホップの持つマチスモな側面の象徴みたいなもんだと思う。
今や日本でもスポーツ的なマナーやピースを前提に誰でも楽しくなんて土壌が出来上がりつつ在るけど、それは本来ホンモノの銃を持ってるような輩相手に世界を敵に回して命をかけるような覚悟でマイクを通じて言葉でぶん殴り合うようなとこから発展してきた文化だ。
この映画の舞台、アメリカはデトロイトの労働者階級コミュニティなんて「強くて悪いやつがかっこいい」とか「サグでギャングがヒップホップだ」というゴリゴリにマチスモな価値観を地で行く地域なんだと思う。

▼ワナビーとしての主人公の苦悩
主人公たち「313(スリーワンスリー)」の一味もヒップホップのそういう面に憧れ、かぶれている。ただ彼らはワナビーであってリアルじゃない。悪ぶってるけど悪じゃない。
ブリンブリンとは程遠い母親のトレーラーハウス暮らし、ビッチはべらせるどころか女は相手クルーの小物野郎に寝取られバトルでも緊張でゲロをゲーゲー吐いた挙句実力を1ミリも発揮できないまま無様に負ける始末。何より主人公は白人で、そういう自分が憧れたヒップホップ像に程遠い自分の現在地を内心ではわかっている。
粋がれば粋がるほど滑稽で、かといって「俺ら全然ヒップホップじゃなくね?」という類の弱音こそヒップホップ的なマチスモレースにおける敗北を意味するとわかっているから主人公は苦しんでる。
「俺はデモを作るから!」「知り合いにコネがあるから!」と他力本願で根拠のない虚勢を張るし、親とか相手にはそれが虚勢だととっくのとうにバレてて「はいはい」と受け流される。
遥か彼方のヒップホップドリームに憧れるだけの季節を抜け出したいと思っているけれどアクションを起こす行動力も無く、デトロイトの底辺で来やしないチャンスをいつまでも待って腐れ縁共と日々を浪費している。車に乗って、ラップして、遊んで、帰る。楽しいけど何も変わらない毎日。

▼夢を諦めきれない"みっともなさ"
多分主人公たちの住むデトロイトも世界中の低所得者層の街と同じように「ここに生まれて、ここで育って、ここで死ぬ」ような人間たちが生きる街なんだと思う。抜け出そうにも気づいたときには足元までどっぷり街の空気に浸かっている。そんな場所だからこそここではないどこかへの憧れとしてヒップホップっていう夢に染まって、ヒップホップっていう夢に溺れて、ヒップホップっていう夢に呪われる。
富裕層地区と貧困地区を隔てる8マイルロード、その近くて遠い距離を埋めたいと願って彼はマイクを握る。消えない思いがある。
夢を諦めきれないみっともなさは僕も痛いほどわかる。たまに褒められる程度に実力はあって、言い訳すんなと怒られ、結局何も変わらないままここまできた。

▼英語のラップのバトルシーンについて
英語のラップのリリシズムがわからないからMCバトルの面白さの肝でもある言い回しとか即興性が飲み込みづらいのが残念だった。ライミングっていう耳で聞いて一発でわかるラップ言及要素はあるんだけどいかんせん勝敗の決め手に関しては「うーん、どっちも上手いけどエミネムかな...?」と言われるがままに従う感が強かった。最後のバトルは物凄く勝ち負けのロジックがしっかりしてるんだけどね。それ以外の試合はラップ自体の音楽的快感とは裏腹にシーンとしては物語が止まる感覚もあった。
まあ本来ラップっていうのは歌ってることに意味が強いタイプの音楽だからバトルシーンで面白がれないのは映画のせいではなくリテラシー、語学力の低いこっちのせい。
ただ単純にこの映画みたいに45秒一本ってバトルのルールだと後攻しかアンサー返せないからそりゃあ圧倒的に後攻有利よね。せめてツーターンやんないとフェアさ保てないべ。笑

▼客観的に映画を観た時
あとまあこれは言っても詮無いけど後追いとしてみると主人公エミネムで最初からめちゃめちゃラップ上手くて全体的にマッチポンプ的なドラマに見えないこともないね。
「あのエミネムもこんなところから這い上がってきたのか」と観るのか「とはいえ後のエミネムだもんね」って観るのかなんだろうけど、この作品の場合エミネム自身が演じてる上に最初からスキル的には結構上手だから結局どっちの視点も内包しちゃってると思う。せめてエミネムじゃない=顔のない俳優が演じるか、もしくはしっかり駄目なラッパーとして描ききるかしないといけなかったと思う。それを両方やってるのがサイタマノラッパー。
8mileの場合エミネムにやらせる以上下手なラップとか演出のしようがないからそこらへんはわざとらしいし、単純に環境と理想のギャップって意味でも彼はまだ本場の環境でサクセスとの距離が近いとこにいるわけだしあとはやる気の問題っていう程度、とも言える。それが夢をかなえる事の簡単そうで難しいところじゃんよって思うけどさ。
でもサクセスストーリーがあること自体が、8mileって距離に理想があることが日本のラッパーからしたら羨ましいってのは絶対あると思う。

★★★★★★★ / 7.0点




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