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2017

映画レビュー:No.544 パンチドランクラブ

パンチドランクラブ
95分 / アメリカ
公開:2002年11月1日(日本公開:2003年7月26日)
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アダム・サンドラー
エミリー・ワトソン
フィリップ・シーモア・ホフマン
ルイス・ガスマン







ネタバレはありません。




靴下でサンダル履くのも素足でスニーカー履くのも全く理解できない。

▼寓意とテーマ~作品の奇妙なリアリティ
冒頭から青天の霹靂ならぬ朝焼けのカークラッシュ!超思わせぶりなピアノの不法投棄!ボーイミーツガール!ピアノ回収!となんかすっごい変な映画が始まったなあっていう事以外何がなんだかさっぱりわからないアバンタイトル。
でも二周目を観ると主人公がハルモニウムを一生懸命テトテトと運ぶところとかその後に「何でこんなの持ってきたの?」って聞かれて「わからない」って答えるところとかすっごく愛おしくなる。

まあ実はこの冒頭でこれがどういう映画かってのはあらかた説明してると言っても良くて、ざっくりと言うなら「金」と「壊れた心」と「強烈な一目惚れ」の話ということよね。
孤独な男が、孤独故に色々トラブルこじらせたりするんだけど一方で一生懸命恋をする、って言葉にするとすんごい陳腐なんだけどこれが実際の映像になるとこんなへんてこな味付けになるんだから監督の仕事ってのは凄いなあと思う。
狂人の主観で進む話をツッコミの不在によってトラジコメディに見せていたり、それメタファーだろ!っていう物や事柄が物語上で割と長いことドスンと存在感放ってたり、言ってみればアニメみたいなリアリティラインの演出を実写の実在感でやってるから真面目に観てた初見時は「変なとこいっぱいあるのに中の人たちは全部素通りして話が進むな...」って掴みどころがなくて困った。
突拍子の無さに端を発してそこから更に突拍子の無いことになってくから、何をどう汲み取ればいいのかきっちり線引きできないとホントに見失うと思う。

▼「金」と「恋愛」~並列する裏表の価値観
例えば「セックステレフォン」や「プリンの買い占め」という要素は「資本主義の中で分断されていく個人」というポール・トーマス・アンダーソン監督のよく描くテーマの一環として観ると物語のスイッチとして主人公の属性説明にちゃんと組み込まれていくんだよね。
一見もう一つのメインテーマである「恋愛」とは関係なさそうなエピソードなんだけど、最後まで観ると「金で手に入らない物」という結論とは裏表にある。彼は金がほしい!っていう資本主義的な価値基準の中で何とかアイデンティティを模索しているし、孤独が故に金でコミュニケーションを買うセックステレフォンに電話して結局お金絡みでより大変な目に遭う。

マイレージ集めにしたって安いプリンのバーコード集めてマイレージのキャンペーン応募して差額を儲けるっていう賢いけどめちゃめちゃ貧乏くさいやり方で、結局買ったプリンは山積みのまま手を付けるつもりもないしかといってマイレージを儲けた後使うこととかは別に考えてないっていう「じゃあなんでこんなことやってんの!?」って笑っちまうくらい金儲け自体が目的化してる本末転倒な馬鹿さ加減。「...あっ!よく旅行とか行くのね!だからマイレージ貯めるんでしょ?」ってフォローするヒロインに「別に行かないけど」って真顔で返すっていう。ヒロイン絶句。笑
だから結局金が何かの解決にならないというか「個人の分断=孤独」の解消には繋がっていかない。ここらへんがテーマみたいなのをわからないで観ると「なんだったのこの話!」って感じにならなくもない。

▼主人公の家族~キャラクターの説明、トラジコメディとしての説明
主人公のそもそもの孤独感の根本にあるひっどい家族たちの存在に関しては、本作のユーモアの方向性の大きな部分を担ってると思う。ホントひっどいんだけど笑っちゃうとこがある。
あいつらに関しては一言「こいつら全然俺の話聞いてくれない」ってそれに尽きるよね。姉貴たちの超一方的な態度に主人公は一生懸命耐えてて、とは言え時折「もう嫌だ!何とかこの誘いは断りたい!」って時にすっごいわかりやすい"嘘"をつくんだけど、それ以外の場面では主人公の気持ちなんか一切配慮せずに言いたい放題言いまくってるくせにそこはすぐに察する姉よ。一見物腰柔らかで味方っぽい義兄も「姉には言いたくない」って相談した事を速攻でバラしたりするし「んー....これは取り付く島がないな」っていう様相。
この辺りのシーンは特にわかりやすくコメディに作ってあるけど、それでもツッコミの文化(つまり笑いの説明の文化)がある日本人としてはこの手のトラジコメディって笑っていいのかなって構えちゃうところもある気がするし、僕も典型的な日本人の観客として2回目の方がより素直に楽しめた。でもわかって観ると笑えるようにしか作ってない。起こってることは超可哀想なんだけど。笑
一応全員良かれと思ってやってるってのと、主人公は主人公で色々と頭がおかしいってのがミソで、物語上で一番存在感を発揮する主人公に同僚を紹介した姉貴にしてもほんのちょびっと良心がポジティブな方向で描かれたりはする辺りは、まあ悪いやつではないのかもなって印象を残す。まあ悪いやつだけどねあんなの。笑 基本的には限りなくただの迷惑に近いありがた迷惑だし。
何にせよ冒頭で笑えるシーンを持ってくるっていうのは脚本術としてとても大事。だからアバンタイトルの直後から主人公が一通り家族にひどい目に合わされる。恋人の話はその後、っていう。

映像的な要素や見どころも多くて二周目の味わい深さが素晴らしかった。逆にこういう映画を一発で掴める人は映画を観てて楽しいんだろうなと思う。時間も金もかからないし羨ましい。
僕は常に同じ尺度で映画に臨んでしまう。映画を観始めたらすぐその作品にリテラシーを調整できる臨機応変さがほしい。
それを補うためにも個人的には全部の映画を二回以上観たいんだけどね。時間も金もかかるし難しい。資本主義的概念も時間の概念も全部無くなればいいのに。

★★★★★★★☆ / 7.5点





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