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2017

映画レビュー:No.545 トンネル 闇に鎖された男

トンネル
127分 / 韓国
日本公開:2017年5月13日
監督:キム・ソンフン
出演:ハ・ジョンウ
ペ・ドゥナ
オ・ダルス








この記事には大きなネタバレがあります。ご了承ください。




ヘッドマウントディスプレイで映画を観ようと思うとどうしてもホラーやサスペンスを避けてしまいがち。

▼サバイバル物としての脚本~前フリで観るサバイバルのロジック
最近「火星の人」っていう超合理主義サバイバル物の傑作を読んでしまったこともあって、ちょっと色々無理があるんじゃないか?と小賢しい感想を持った。でも記録更新級の長期サバイバルとなると尚更精神論じゃないべ。

正直「トンネルが崩れて生き埋め状態」って設定の時点からそんなの出来ること限られまくりだしどう映画を持たすのかなと不安になった。
埋まってしまってからは主人公は身動き取れないわけだから埋まる前までに主人公の持ち物や状況説明など後々彼の手札になるカードを観客にも示すような前フリが大事になると思うし、逆にそれ以外の部分で状況に変化を加えるのは作劇的にはズルいと思うわけ。つまり主人公が何ができて何ができないのか、をどれだけきっちり用意できるかがこの手のサバイバル物の信憑性としては凄く大事。映画においては「災害が起きたけど自分とは関係がない場所でした」とはいかないので(当たり前だ)、起きる前にしっかり登場人物が大変な目にあっても諸々頑張れるようアイテムを準備しとかないといけない。

その点でまず中盤にいよいよ打つ手がなくなったか!?ってタイミングでそれまで映画の中で全くその可能性について触れられていなかった「先行車」を登場させるのが作劇のマナーとしてまずズルい。
それを出すなら車間距離を考えてもトンネル崩壊前に一度観客が認識できる情報として提示しておくべきだし、それが無理でもせめて救助隊の情報で別の生存者の存在を匂わせておくとかしておくだけでも全然違ったと思う。対向車ならまだしも同じ車線っぽいし。ちなみのその乗客が後々辿る運命を考えたら対向車という演出だったら良かったんじゃないかなと思う。
まあ何にせよこの展開はドラマ的にいかにも不都合を回避してる感ビンビンでまあズルいわな。

▼今ある要素でロジックを作れるか否か
とはいえまあこのくらいの都合のいい足し算が無いと成り立たないくらいあまりにも状況gあ絶望的だし、ここまでを前フリ、セッティングとして後のサバイバルに生かせれば充分かなと自分の鑑賞スタンスをリセットするんだけど、正直そこからも手持ちのカードをロジカルに活用するサバイバルにはあまりなっていかない。
特に「掘る場所を間違えてました!」っていう、「確かにこのまま素直に救出されるとは思ってなかったけど、とはいえこんなのどうすんの!?もう終わりっしょ!!」っていう悪夢のような展開の後こそ精神論の通用しないサバイバルの領域だし創意工夫の見せ所だと思うんだけど、正直風呂敷を広げるだけ広げてあとはハッピーエンドで全てをうやむやにするようにあまりにも行き当たりばったりな展開に必要なロジックが追いついていない。
サバイバルとあって期間が長くなればなるほど状況は極まっていくから映画としては盛り上がるんだけど、現実問題としてクリアしないといけない条件もどんどんハードになっていくわけよね。この映画の場合そうやって物語が進むほど過酷になっていく状況に対してロジックはどんどん精神論に置き換わっていくので段々主人公の結末に向けて予定調和になっていくように感じた。主人公の頑張り、ってそりゃあみんな死にたくないって頑張るわ。生き埋めの最長記録更新って空腹我慢するのとはわけが違うぞ。
僕は正直犬も死体も食べるんだとばかり思ってた。限定空間のサバイバル物として今回役に立ちそうなものはこれとこれとこれですっていう前フリとそれらの活用、つまり手持ちのカードの見せ方も使い方も練り込み不足でうまく行ってないんじゃないかと思う。

結局「主人公が救助を待つだけ」という状況になってから急速に面白くなくなるんだよなあ。
映画としても視点が切り替わって地上側の諦めムードにフォーカスされていくし、それは地中の主人公に関しては信じて慮るしかないっていう状況と同じと言えるかもしれないけど、とはいえ「映ってない間もなんとか生きてました」ってのはあんまりにも都合が良くないかと思ってしまう。

▼キム・ソンフン監督持ち前のブラックユーモア
韓国のマスゴミ、政治家の露骨すぎるくらい露悪的な描き方は、前作「最後まで行く」でブラックユーモアに真っ黒なセンスを発揮したキム・ソンフン監督だけあって笑っちゃうほど気分悪かった。最後の最後まで一切の反省も利他性も描かない清々しいほどの思いやりの無さ。これで主人公が助からなかったりでもしたら大変な胸糞映画としてそれはそれで強烈に記憶に残る作品になったかもしれない。観たいような、観たくないような。
地中と地上のカットの切り替わりにも意地悪なユーモアがあって、そういう「主人公が大変な時にこいつらは...」的な嫌味な手つきが面白かった。班長がションベン飲むくだりは笑った。

とはいえ全体的には物足りなさが残った。キレイ事にまとめすぎっていうかキレイ事に頼りすぎっていうか。「こんなんどうすんの!?」という引きの強い設定でグイグイ引っ張るけど予想を裏切り期待に答える構造が弱い。

★★★★★☆ / 5.5点



同監督の前作「最後まで行く」はとってもオススメ。真っ黒なユーモアセンス!

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