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2017

映画レビュー:No.546 パーソナルショッパー

パーソナルショッパー
110分 / フランス
公開:2016年12月14日(日本公開:2017年5月12日)
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:クリステン・スチュワート
ラース・アイディンガー
シグリッド・ブアジズ







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。



ガムシロップが使い捨てじゃなく容器で出てきた時ついつい沢山入れちゃいがち。

▼主人公の裏表を並列して描く語り口
主人公クリステン・スチュワートが霊媒師にしてセレブモデルのパーソナルショッパー(平たく言うとお使い)っていうだいぶ馴染みのない設定。「霊媒師にしてパーソナルショッパー」ってパワーワードっぷりが凄い。
しかも冒頭から「霊媒師」とか「死んだ弟のサインが」とか胡散臭いワードが結構フラットに会話に登場するので「んー、凄い変な前提の映画だ...」と半信半疑な気分になる。
ホラーって言うにはなんかちょっと違うっぽいんだけどね。前フリがないしストーリーも怖い方に向かっていかない。サスペンスではある。

主人公の公私、つまり霊媒師やってるとことパーソナルショッパーをするとこを並列して別々に語る作りは最近観たパンチドランクラブの様式を思い出したりしてこういうシンクロは不思議だなあと思う。寓意が割とリアルに描かれる演出の手触りとかも近い気がする。
これらの要素は常に裏表で最終的には一つの部分に集約されていくんだけど、それが一見してわかりにくいってところも似てる。面白いなあ。

▼「アイデンティティ・クライシス」というテーマ
かくいう僕も観終わってあんまりにも掴みかねたから作家自身がどういう風に説明してるのか読んでみたくなって、TOHOシネマズの売店の「立ち読みできるならやってみろ!」っていうレジ前ダイレクト監視スタイルに屈せずに見本で主役インタビュー、監督インタビュー、コラム、プロダクションノートと一通り読み漁った。我ながらいい度胸してると思う。
監督の言葉を借りるとこの映画は「アイデンティティ・クライシス」を描いてる。そしてインタビューの中でもことさら「ホラー」でも「オカルト」でも無いことを強調してる。「ああなるほどね」って腑に落ちる部分と「だからあんまりノレなかったかもな」って部分、どっちも結構はっきりした。何にせよこの「アイデンティティ・クライシス」って補助線一個あるだけでだいぶクリアに映画を観れると思う。

主人公は願望も込みで弟の霊の"サイン"に固執している。決定的な体験をした直後に「いやあ、でも何でもないかも...」みたいな事を他の人には言ってたり、つまり全て彼女の中にこそ証明したい事があるように映る。他の人から見て霊がいるかどうかは別に大切じゃないっていう。
だから彼女はユゴーのスピリチュアルパーティなんて胡散臭さ極まる動画を熱心に観たり、宛名不明のメールとのやり取りにのめり込んだり「見えない物を見ようとする」事に執着してる。
全部が彼女にとっての主観的な出来事でした、とも捉えられるグレーなバランスを保つ演出は単純に緊張感があって面白い。

逆にパーソナルショッピングのシーンでは彼女が感じてる抑圧や潜在的な欲望がじんわりと滲んでくる。「言ってることとやってる事が違う」みたいな静かな違和感とか小さい揺さぶりが細かい布石になってる。
主人公のファッション演出も面白くて、映画に登場したクリステン・スチュワートは下着すら付けないくらい男性として演出されてる。主体性の無さというか、死んだ双子の兄や華やかな雇い主に対する実は極端なコンプレックスみたいなのが現れてるように思う。
そんな主人公に対して「本当にそれでいいの?」ってそういう揺さぶりがガンガン働くような話。
ちなみに感想とは全然関係ないけど序盤のクリステン・スチュワートの着こなしが全体的にいちいち僕の着たいコーディネートでめっちゃ服が買いたくなった。

▼クライシスするアイデンティティの描き込み不足
ただアイデンティティ・クライシスの話としてみるとそもそも彼女がどういう人物なのかという描写の掘り下げがとても弱いように思う。
前提として主人公がどういう人物なのかって観客が思えないと変化に向けた揺さぶりとかカタルシスが成立しない気がするんだけど、本作の場合主人公の抑圧やコンプレックスに具体的な描写がないから例えば彼女の言う「試着は禁止されてる」とか「禁止されてるから欲望がある」って言葉がどれほど重たいのか観客はわからない。
そもそも本題に入るのが早いよ。彼女の第一印象がパキッとしない内に結構色んな事が起こって観客の印象がそっち側に映ってしまう感じ。
そこが凄くもったいないなと思う。パンチドランクラブで言うとアバンタイトルの次にくる主人公の家族の描写にあたる部分、そこが明確に足りないと思う。

★★★★★☆ / 5.5点

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