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2017

映画レビュー:No 554 光

光
107分 / 日本
公開:2017年5月27日
監督:河瀬直美
出演:水崎綾女
永瀬正敏
神野三鈴
小市慢太郎
藤竜也






この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




「満員電車で超だるい」とか「人混みが嫌だった」とか言うやつはまずお前からいなくなれと言いたい。

▼「観客に映画を届ける」という事を描いた映画
映画の音声ガイドを作る主人公の話、つまり「映画をどうやって観客に伝えるかを生業にする人の話」とあってめちゃめちゃ自己言及的な題材。
とは言え自分の仕事にとって大事な何かが欠けている人物と社会的なハンデと向き合いながら自分の好きなことに執着を見せる人物っていう登場人物の設定、関係性とか、ラストに主人公が気づき学び成長したことを自分の仕事(それも誰かを喜ばせるという仕事)で表現するってところなんか監督の前作「あん」とも結構似てる。
きっと筋書きじゃなくキャラクターとその関係性で物語を発想する監督さんなんだろうと思う。だから構造を下敷きにしてもちゃんと新しい手触りの作品になるんだろう。

目の見えない人でも映画を楽しめるように、つまり「作り手が観客に映画を届ける」という事に真摯に向き合ったテーマだし、そうやって観客の想像力を信じなさい、とか観客の解釈を尊重するとか劇中で言及するこの作品自体はそういう事がきちんとできてるのか?っていう超弩級のブーメランを放るチャレンジングな題材でもある。

▼音声ガイドを制作するシーン
音声ガイドの制作過程が凄く面白い。単純に凄い建設的で健全なディスカッションだと思う。かと思えば永瀬正敏が急にやたら厳しいトーンでやたら厳しいことを言う。何でそんな言い方するんだ!と思うけど主人公も主人公でカチンと来ちゃってちょっとどうかと思う物言いをする。
片っぽはどう見ても訳ありで片っぽはどう考えても問題有り、というわかりやすく描く余地のある人物が登場する。

▼作り手の自己言及
「思った事をきちんと言わないことで展開するドラマ」が僕は性格的にあんまり好きじゃなくて、相変わらず会話が奥ゆかしかったり見ててノレないなあっていうシーンも無くは無いんだけど、この映画の場合そういう"わからなさ"はテーマ的な部分だから結構意図的なんだろうと思う。
基本的には映像は一つの解答を示すものであってその意味で映画ってのは双方向性のあるメディアではない。描かれていることを曖昧にしたいならそこには「曖昧に描きました」という意図が必要だし、少ならからずディレクションには答えを用意しないといけない。
作り手は観客の自由な解釈という言葉に甘えて結論を投げ放ってはいけないし、かといって思っていることを観客に押し付けてしまうのも違う。その上で誰もが納得する映画を作ることは出来ない。それは作り手が引き受けなければいけない"結果"だと思う。
でも河瀬監督が言いたいことは「"過程"において作り手がそれを諦めることは違うんじゃない?」っていう作り手の真摯さへの要求だと思う。
そこまでやって監督は初めて作品に対する責任を負えるのかもしれない。自らに厳しいテーマだし、それについて描いた作品がきちんと観客に向かってメッセージを渡しに来る構造になっているのは凄いなと思う。

▼観客に向けられている部分
同じところを観てウシダさんやAKIRAくんが観客に対する批評性を感じているのは面白い。
僕はこの映画は観客に対しては自由な解釈を尊重していると感じた。エンドロールでの観客席のカットは劇中のラストシーンとは違う客層を映していて、僕にはそれが映画館で映画を観る観客への肯定のように映った。その上で劇中の藤竜也が言うように河瀬監督としてはこの映画が観客にとって希望に映ることを願っているんじゃないかと思う。
「こっちから行くから、そこで待ってて」っていう劇中のセリフに僕は監督の覚悟を感じた。

▼撮影の印象
前作の「あん」も映像で多くを語る作品だったけど今作も撮影がとても印象的だった。
僕としては極端なアップそれ自体より画面の一点にのみピントの合った撮影、逆に言うと画面の手前や画面の奥、対話する相手が"よく見えない"という視覚的な情報の少なさが印象に残った。それはもちろん弱視のカメラマンの視野を表現する意図もあるだろうし、"見えない部分"や"自分以外"に想像力を持てというメッセージのようでもある。

相手の気持ちを考えるなんてのは何も特別なことはない人間関係にとって不可欠で大事なことだ。
きっとヒロインはあのカメラマンの辛さに寄り添い、あのカメラマンはヒロインの苦労や努力を知った。そうやってお互い少しずつ心が近づいた先で同じ景色を同じように感じれることが希望なんだろう。
映画の観客と作り手も、僕と隣りにいるあなたもそうあるといいなと思う。

★★★★★★★ / 7.0点




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