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2017

映画レビュー:No.556 22年目の告白―私が殺人犯です―

22年目の告白
116分 / 日本
公開:2017年6月10日
監督:入江悠
出演:藤原竜也
伊藤英明
仲村トオル
早乙女太一
夏帆
野村周平
石橋杏奈
竜星涼
岩松了
岩城滉一









この記事は「22年目の告白―私が殺人犯です―」とリメイク元の韓国映画「殺人の告白」の致命的なネタバレを含みます。ご了承ください。



21世紀映画ベストなんて21世紀が終わる時に出すもんであって、俺はベストの安売りはしないぜ。

▼公開初日に観たっていう話
僕モテメルマガ主催の入江悠監督の最新作とあって久方ぶりに公開初日にちゃんと映画を観るマンを引っ張り出して、昼間のTOHOシネマズ渋谷というセルもここにいるやつら全員吸収したら完全体になれんじゃないかと思うくらい若くてピッチピチの仮想敵真っ只中で一人「映画を観に来ました」的なツイートをするために写真を撮る。

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上映前は右を向いても左を向いてもカップルが座る満員の劇場で隣のチャラ男が上映中に携帯電話をいじったらどう殺すかのイメトレに励む。ダースモールに殺される直前のリーアム・ニーソンもきっとこんな気持ちだったと思う。
とはいえ公開初日の満員の劇場は映画を心待ちにする空気が強くて良い感じ。僕も普段は予告編が始まるまでイヤホンをして本を読んでたりするのだけどちょっと周りの若いお客さんがどういう会話をしてるのか聞き耳を立ててしまった。
考えてみたら僕はジョーカー・ゲームは公開日に観れなかったのでこの規模の入江監督作品をこういう空気の中で観るのは初めて。入江監督の熱が広く伝播してこういう観客層にまで届いているというのが目に見えてわかるというのは感動的なもんだ。公開日に映画館で映画を観る事もそうだし色んな映画がある中でこの作品を選んだこの人達は同志!という好感は否定し難い。向こうは僕を観て「一人で映画を観に来てるとかサイコパスじゃなーい?」「えー、やだー。怖ーい。」とか思ってるかもしれないけど。

▼リメイク元の「殺人の告白」を僕がどう観たかって話(ここからネタバレあります)
リメイク元の韓国映画「殺人の告白」は身も蓋もないネタバレをすれば(いいですか、ネタバレをしますよー。今回は「殺人の告白」も「22年目の告白」も全部ネタバレします。まだ観てない人はソッとブラウザを閉じて親孝行をするか映画館に行きましょう。)、すーっごい回りくどいおとり捜査って話なんだけど個人的には真犯人が現れるっていう作戦の一番大きな確信が超絶一か八かで、正直観終わると「うーん、結果オーライとしか言いようがない。」という感想の残るトンデモ映画だった。
劇中の作戦は犯人から見れば「どういうつもりかわからないが何か企んでいるということだけは確かだ」っていうあからさますぎるくらいあからさまな罠で時効犯罪の緻密さに対してそこは素直にノってくるのかっていう頭の悪さみたいなのがあまり繋がらないし、別にそういう感情的な都合の良さを抜きにしても犯人が死んでたりしたら延々時効の殺人犯演じ続けないといけなくてめちゃめちゃ大変だし、リターンの保証が無い割にリスクが大きすぎると思うわけ。
実際殺人犯を名乗ってた主人公は毒蛇に噛まれるし車から放り出されるし胸をボウガンで射抜かれるしってえらい目に合ってるわけで、まあ普通に考えられる復讐の範疇を50マイルくらい越えてるとは思うけどそんな世界なら尚更リスクばかりが大きい。実際餌垂らしたら能動的にできることほぼ無くなっちゃうし「たられば」を言い出したら円周率よりキリがない。ただミステリーとしてのワイダニットの興味の持続は抜群に強くてそれだけで映画を最後まで見せきる面白さはある。
あともう一つ、韓国版は平場のシーンとはとても同じ映画と思えないくらい頭のネジが5、6個ブッ飛んでるようなどうかと思うアクションシーンがあって、そこら辺の前後の整合性にかかずらわずにとりあえずシーンを面白くしましたっていう過剰なエンタメ精神をどう処理するのかってのもリメイクの見どころかなと思う。それに関しては日本版として単純に置き換えるのが難しいくらい凄い事をしててそれはやっぱり日本版で工夫して改変しないといけない部分。
要は殺人の告白は「ミステリーとしてのワイダニット」と「全体の印象以上にやたらせり出すアクションシーン」ってのが良さ=面白さとして凄く大きく印象に残る作品だった。

▼本作の印象~リメイク元との比較で感じる良い部分、悪い部分
だからリメイクにあたってはとりあえず主人公たちがこの作戦に対して確信を持っているっていうロジックを強化してくれないかなと期待してた。
特に今作は舞台も日本になった事で観客のリアルとの距離もグッと近くなるし、何より韓国版のあの頭の悪いアクションシーンが出来ないとなるとやっぱりリアリティの方向で物語を構築していかないといけないし、そうなると中心に大きな荒唐無稽さ(頭の悪さ)を残したままでは物語のシリアスさを致命的に損ねてしまいかねない。
その意味で、今回の「22年目の告白」は物語を日本社会に置き換えた場合のディテール、社会情勢など「日本でこの騒動が起こったら」という脚本上必要なリアリティを上手くリメイク元から置き換えながら物語の幹になる脚本は割と「殺人の告白」のままだった。良くも悪くも。

良かった点としてはまずミステリーとしての手続き、起こることの見せ方に関して最後まで緊張感が途切れず面白かったところ。殺人の告白を未見で本作から観た人は特に楽しく観れるんじゃないかと思うし殺人の告白との比較という点でも結局どこがどのくらい改変されてるのかわからないんだから結局面白いよ。物語の構造として見終わった後に「でもあれってさ...」という疑問が浮かぶかどうかは観ている間の興味の持続とはまた別の話で、この面白さを削ぐ理由にはならない。
これはやっぱり「時効を迎えた殺人事件の犯人が告白本を出版」っていう設定がそれだけで特大の謎を生み出せる優れた設定ってことだと思う。

▼リメイク元から残っている弱さと本作特有の弱さ
ただ作戦の合理性というリメイク元の弱さも相変わらず残ってると思ってて、そもそもの出発点のおめでたいくらいの運任せっぷりとか、これは推理というより推論じゃないのか?という当てずっぽう感、偶然感とか、正直警察が裏で手を引く作戦がこんなに成り行き任せで良いのかっていう感想はある。
何より個人的にリメイク元でかなり感心したある登場人物が実はこの人が整形した人物でしたって部分のミステリーとしての持って行き方もロジックも本作ではかなり弱くなっていて、この部分はリメイク元のほうが上手にやってたなと感じた。

真犯人のキャラクターはリメイク元よりも掘り下げられててそこが本作の最も大きな改変ポイントだったのだけれど、一番のクライマックスで彼の言うサイコパスとしての理屈に正直あまり説得力を感じなかったのも残念だった。彼の裏側の感情が22年間どういう気持ちで過ごしていたのかが伝わらないので単純に凄く唐突な感じがする。
そうでなくても僕はクライマックスで真犯人の部屋に行ってからは藤原竜也の感情の流れの描き方がだいぶ強引だと思ってて、多分あそこは石橋杏奈が殺される映像を観て自分もこの犯人と同じになってしまうっていう理由で踏みとどまったんだと思うんだけどその後の空港のシーンに至るには「手を止めてしまう」ではなく「翻意する」っていう強固で前向きな理由が欲しい。現状犯人的には痛くも痒くもないってあたりが個人的にはかなり中途半端に感じる。
例えば藤原竜也と真犯人の関係においては「俺はお前の思い通りにはならない!」って形でガツンと決着を付けても良いんじゃないかな。そうすれば藤原竜也は22年間を精算してペイバックから解放されましたっていう余韻と、犯人の「こいつ懲りねえ、、、」っていうちょっと苦い皮肉、そして結局因果応報で報復されるって展開にもより大きなカタルシスが生まれると思う。
まあここは好みの問題かなあ。

▼脚本としての詰めの甘さと都合の良さ
ミステリーはリアリティより多少アンフェアでも興味を作り続ける脚本が肝心なんだと思うしその意味では堂々とミステリー映画してるんだけど、個人的には随所に詰めが甘く感じてしまったのも事実で、例えば被害者の職種とか本当に脚本のための設定になっていて「犯人はなぜ医者やヤクザの家族をターゲットのしたのか」という部分までも推理に内包できればもっと謎解きに裏切りや快感が生まれたと思う。
他にも「過去のトラウマを自分で再現する事があるのか」っていう藤原竜也のセリフはちゃんと物語内で情報として提示した範囲で回収するべきだと思う。あの人物が昔こんな目にあってたってのをその後に出すのは後出しジャンケンでフェアじゃない。
中盤の真犯人登場からの裏切りも「んー、まあそうなるわな」ってくらいレベルの低い裏のかかれようだし、理詰めで進む話として一つ一つの脚本の流れに必要な理屈の密度も強度も弱いと思う。平たく言えばみんな登場人物がみんな頭悪い。

▼キャスティングの印象~日本版リメイクならではの面白さと意義深さ
伊藤英明と藤原竜也はすっごく良くて、最終的に彼らの必死さがと不憫に映るのは舞台を日本にしたことや役者さんの表現力による大きな功績だと思う。
前述した作戦の合理性の無さも「こんな無理な作戦を実行してまで...」と感情移入してグッと胸が詰まってしまう瞬間があった。
監督の言う「キャスティングで物語の結末を予想させない」という意図も作品規模ともとてもマッチしてて、結果として2週連続週末興収1位っていうのはめちゃめちゃ納得。映画としてのリッチさと物語の構造がマッチしてる。
下世話な言い方に聞こえるかもしれないけど客を呼べる要素が揃ってるし、それを作品の外側からの要請で渋々内包するのではなく映画としての必然性に取り込んでしまうというのは大事なことだし素晴らしいと思う。

個人的にはリメイクとして元の映画から良くなっている点、弱いままの点、ちょっと弱くなっている点とそれぞれ感じた。
総じて言えば途中でも書いたけど「時効を迎えた殺人事件の犯人が告白本を出版」って設定がミステリーとして抜群に優秀っていう、それ以上でも以下でもないと思う。
結局この仕掛けの荒唐無稽さに頼っている内はどこまで行ってもリアリティとは食い合せが悪い。

★★★★★☆ / 5.5点




ちなみに!!毒にも薬にもならない余談として、サイン会イベントのシーンでエキストラとしてバリバリ画面に映ってて正直恥ずかしかった。笑
僕の姿かたちを知っている友人からは「初見時に何も考えずに観ててもけんす君はわかった」と次々に指摘されてエキストラとして失格の烙印をモリモリ押されていくような気持ちだ。
ちなみにサイン会イベントのシーン以外にも伊藤英明が夏帆のいる書店に来るシーンで映ってるよ。店の前の報道陣と店内のお客さんとして灰色ボーダーのロングTシャツ着てるのが僕です。
これから観る人は僕を探しながら観るっていう見方をすると、多分めちゃめちゃつまらないと思います。


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