06
2017

映画レビュー:No.559 エル ELLE

エル elle
131分 / フランス
公開:2016年4月25日(日本公開:2017年8月25日)
監督:ポール・ヴァーホーヴェン
出演:イザベル・ユペール
クリスチャン・ベルケル
アンヌ・コンシニ
ロラン・ラフィット
シャルル・ベルラン








この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




小梅(飴ちゃん)の口に入れた瞬間の顎関節がキゥ!ってなる感じが好き。

▼フランス映画祭のとりとめの無い話
ELLEというアルファベットの並びに俺の中の青春がザワつくぜ。ポール・ヴァーホーヴェンとイザベル・ユペールのティーチインが付いてたんだけどフランス映画祭は質問のクオリティがヒクソン・グレイシーに腕でも極められてんのかってくらいヒドい事で有名で、ご多分に漏れず今回もクオリティが低かったという以外の記憶が薄ぼんやりとしている。イザベル・ユペールやポール・ヴァーホーヴェンは良いように捉えて面白い話をしてくれてた。
ヴァーホーヴェンはうえー!ぐちょー!って映画を取るけど見た目好々爺で良い人バイブス高かった。

▼暴力についての映画~不可逆な影響力
冒頭に描かれるショッキングなレイプシーン、そして39年前に起きた主人公の父親の連続殺人事件。2つの大きな暴力の影響が物語を覆っているのだけど、実際の人間がそんなに単純ではないのと同様にこの主人公にとってもそれらはあくまで一つの要素として映している。直接的ではないけれど決定的な出来事が起こってしまった後の世界という、彼女はそういう感情の中に生きている。まああのキャラクター本人は絶っっ対にそんなこと認めないだろうけど。

▼アイデンティティの再構築の話
彼女は言ってしまえば自分の意志とは関係なく人生を壊されてしまった人間なわけで物語(映画)の始まった時点ですでに壊れている。決定的な不条理を通過したことで世界や他者に対して不信を極めているし、どれほど近い関係の人間に対してもどこか決定的に心を許さないし、それどころか無意識的に上位の存在であろうとする。
彼女は「幸せになれない人」なんだけどそういう「あなた達のせいで私は幸せになれないの」という態度が彼女をより不幸にしているし、そんな彼女にとって「やっぱり私は幸せになれないんだわ」という実感こそが彼女の実存を問うという皮肉。
Q&Aでイザベル・ユペールが主人公について語った際に「実存主義的な問い」「再構築」というワードが出てきたけど、この映画は彼女のアイデンティティの再構築の話だと思う。
アイデンティティが揺らぐ話で言うと今年の映画ではパーソナルショッパーのフィジカルな寓意の描き方が印象的だったけど、本作の送り人不明のメールの描き方はあの映画と結構近いものに感じた。

▼奪うか、奪われるか、という人間関係のコード
彼女は不幸な自分を実感しないように他人を不幸にしようとする。奪われる人生を取り戻すために他人の幸せを否定し、壊そうとする。自分の不幸も他人の幸せも認められない。そんな価値観が体に染み付いている。
元夫が彼女を作ったら速攻で面通しに行くし、息子の彼女は平気でビッチ扱い。親友の彼氏は寝取るし、レイプ犯相手にすら「あんたがやりたいようにやってんじゃなく、あたしがやりたいようにやらせてやってんのよ」と優位な立場に立とうとする。しかも無意識的に。

▼暴力と性差
暴力による奪われる構造にどうしたって性差が横たわるのが男としてすっごく居心地が悪かった。
僕は日々ポルノのお世話になりながら男女の平等とはなんぞやということを考えてしまう正しく欺瞞的な人間なのだけれど、この映画のように男が相手というだけで友情どころか恋愛すら成り立たないのはちょっと悲しい(なんか変な言い回しだけど)。でも僕に始まり全ての男性は欺瞞的なものなので、そういう人種をそうやって評価するのは正しいとも思う。
僕は強姦やDVに始まる暴力は基本的に男性原理的なもんだと思ってるし、結局この映画もそういう構造の中にあって、未だにそれが映画で描かれるべき題材であるという事がちょっと辛いな。もちろん「暴力についての映画」なんて今も昔も普遍的に語られて来たテーマだけど。
僕にとって一生身に迫る事の無いどころかその危機感の原因になり得るということが、何ていうか、ヘコむ。男性として誰かを幸せにしたいもんだ。

★★★★★★★☆ / 7.5点

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