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2017

映画レビュー:No.563 ハクソーリッジ

ハクソーリッジ
139分 / アメリカ、オーストラリア
公開:2016年11月4日(日本公開:2017年6月24日)
監督:メル・ギブソン
出演:アンドリュー・ガーフィールド
サム・ワーシントン
テリーサ・パーマー
ルーク・ブレイシー
ヒューゴ・ウィーヴィング








この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




宇多丸のアイアムアヒーロー評を聞いてからオーバーオールを着なくなってしまった。

▼余計な前談
僕は元来ゴア描写は出来る限り自分の生活圏から遠いところに置いておきたいという平和主義な人間なのだけれど、「ハクソーリッジは怖いから観ない」と逃げ腰な映画友達のウシダさんを脊髄反射で「ハクソーリッジ見ずしてベストは語れないですよ!」とイジってしまった手前敵前逃亡という選択肢が無くなってしまったので仕方なく観ることにした。
まあ映画なんだからスクリーンの中の死体とか残酷描写とか全部作りもんだしね!(僕が身も蓋もない発言をする時はだいたい裏腹です)

ちなみにトニ・エルドマンをたまたま同じ回で観ていた映画友達のチートイツさんとサブウェイでご飯したのだけど、いかに自分にハクソーリッジが必要ないかという言い訳をとうとうと述べていたら「いいから観に行きなよ(意訳)」と呆れられた。
じゃあ一応調べてみようと上映スケジュールを開いたらなんともありがたいことに丁度いい時間の上映が丁度近くのシネコンであって、チートイツさんの「これはもう観ろということだね」という励ましの言葉にトドメを刺される形で自分でもびっくりするほど足取り重くチケットカウンターに向かった。

▼主人公に感じる理解不能な気持ち悪さ~常に先走る主人公の価値観
退役軍人にしてアル中という、暴力しか言葉を持たない父の情操教育によってすくすくとマチスモ原理を身に着け大きくなった主人公。ある日いつものように兄弟でじゃれ合う中で勢い余って弟を半殺しにしてしまい「人殺しは良くない!」と天啓を受ける。
そんなこんなで大きくなって主人公はアンドリュー・ガーフィールドそっくりの姿形の青年期を迎えるのだけど、なんか大きくなった途端やたらニヤニヤしてたり何か佇まいが不気味で「こいつサイコパスなんじゃないか」と思ったらその後の一目惚れした相手に対する行動とか、軍隊入隊以降の態度とか意外と本当にそんな感じだった。
一応僕の持った感想を明確にしておきたいんだけど、僕はこの主人公は基本的に怖いし何考えてるかわからなくて気持ち悪いと思ってる。でもこの映画は彼にそういう印象を持つこともコミコミで演出されているように感じた。だから作品の評価はまた別にある。

宗教に仮託しまくる狂気じみた妄執もそうだし結局最後までこの主人公の主観的な世界の中にヒロイズムや正義がある。人を助けるサイコパスっていうか、結果として人助けをしてる感じ。一歩間違えれば人を殺すような人間だったかもしれない。
信念といえば聞こえは良いけどこれは結果オーライってだけで美談とは感じられない。人命救助は結果こそが最も大事だとも思うけど、それ以前に家族がいるのに戦場に行くことも戦場で武器を持たないことも僕は自己満足だと思う。

▼戦場に働く感情のない暴力
人体欠損に造形の深いメル・ギブソンだけあって人がすごい勢いでボロンボロンと死んでいく。およそ人体がそういう形になっているのは観たことがないしこれからもあんまり観ないと思うっていう形状の死体や切り株が戦場の至る所に嫌というほど転がっている。
そして戦闘が始まってしまえばもはや伏線も物語的因果も働かない大カオス状態で、どこに敵がいるのかもどれが敵なのかもよくわからないままとにかく行き当たりばったりに即物的な暴力が延々と作用する。人の生き死ににロジックなんて無く、死ぬ時は死ぬし、たまたま生きてる。その暴力の理由の無さが戦争であって、それはナンセンスに映るし、何より怖い。

▼主人公の抱える本質的な矛盾
逆に主人公が崖の上で孤軍奮闘する場面は物語的因果がゴリゴリに働くのでサスペンスは弱いのだけど、ここは戦場の緊張感ではなく戦争に受動的にしか関われない主人公の本質的な矛盾が強調されているように思う。
彼の言う"救い"は"被害"と表裏一体で、彼は負傷者を助けることはできても味方の負傷を未然に防ぐこと(つまり敵を撃退すること)はできない。実際彼は目の前で味方が撃たれるところを黙って見ているだけというシーンもある。
もちろん実際彼は人の命を救っているのだから立派なのかもしれないけれど、それは銃を持っていてもできるし、何なら本質的には戦場でなくてもできる。(もちろん銃弾が飛び交う戦場でそれをやるからこそ凄いというのもあるんだけど)
凄いけど立派じゃないし、逞しいけど美しくはない。結果は正しいけど過程は全然正しくないと思う。それを結果の正しさとして受け止めて良いのか僕にはわからない。だから戸惑ってるというか、あの主人公に対する気持ち悪さが残ってる。

▼作り話っぽい劇映画としての印象
それも含め冒頭から凄く"フィクションの登場人物"って感じで主人公にリアリティや感情移入があまり無い描写がされていて、主人公周りの要素に関しても"劇映画"として機能している感じが最終的に作り物っぽい手触りというか、ある程度のところで割り切れてしまう感覚になってしまった。
悪い意味で「これは映画だ」って感じというか。設定やキャラクターがリアリティではなく作劇(もっと言えばエンタメ)の為に機能しているような感覚がある。
僕は死んでも戦場には行きたくないと思ってるけど、そういう人の視点というかションベンちびっちゃうような死の恐怖とか緊張感があの戦場には希薄だった。行くも地獄、帰るも地獄、みたいな「もうおしまいだあ」って手詰まり感って言うのかな。
みんな命がけで勇敢に戦ってるもんな。痛さはあるけど怖さは控えめ。
今作の場合敵も非常に機械的な無機質さで描かれているし、そこも暴力という以外の要素が無くて即物的な手触りにつながっているように感じる。もちろん戦場に働く暴力は怖いんだけど、逆に言うと暴力が怖い以外のことがあんまり無い感じがした。
まあ端的にメル・ギブソンは煽情的なドラマとかあんまり興味がないんだと思う。戦争ってのは動き出したら止まらない暴力装置みたいなもんで、感情とかじゃねえから!って感じ。わからんけど。

そんなこんなで終始ビクビクしつつもどこか冷静に観てしまうところもあったり。ただ迫力はすんごいよ。人が一瞬で肉の塊になる。
描写の力強さに圧倒される映画体験なんだけど僕はもう少し感情移入というものに映画の評価軸を置いているので、総じてややウケくらいな熱量かな。でも奥歯ガタガタ言わせながら観た。

★★★★★★★ / 7.0点

あと悪夢のシーンで気を抜いてたら本域でビックリして「うぉい!」って声出してしまった。恥ずかしー!


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