05
2017

映画レビュー:No.576 裁き(原題「Court」)

裁き
116分 / インド
日本公開:2017年7月8日
監督:チャイタニヤ・タームハネー
出演:ビーラー・サーティダル
ビベーク・ゴーンバル
ギーターンジャリ・クルカルニー








この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




マンガの実写化作品はどんな作品であれ役者さんが宣材写真でブワッと並んでる画像だとめっちゃ面白そうに見える。
ビジュアルが公開されると興味が文字通り消え失せる。

▼並列性によって重層性が浮かび上がる構造の妙
難しいことをわかりやすく語っているような内容の映画で「関心を持つ」とか「知識を身につける」とかそういう社会的な知的好奇から来る面白さが強い。ボリウッドの華やかさとはまた違うインド映画の側面。いわゆるボリウッドって映画観たこと無いけど。

映画「十年 TEN YEARS」の言葉を借りるなら「慣れる」という事でディストピアは完成するのかもしれない。
物語としては法廷劇の面白さを軸にしつつその本筋とは関係のない登場人物のオフの姿が合間に挟み込まれる。法廷のパートからも市井のパートからもインドの社会が見える。しかし映画としてそのオンとオフを横断した時に"関係が無いように映る"という事にこそインド社会の持つ問題が浮かび上がってくるように思う。
映画として箇条書き的な散漫さにはならないよう韻を踏むようにさり気なくダブルスタンダードを皮肉として示すことで広い視野で社会批判を描く。並列性によって重層性が見えてくるという、面白さを生む上手い構成。

▼法廷劇の面白さ
自殺を煽る歌を歌ったってんでアーティストのじいさんが逮捕され裁判にかけられるところから映画は始まる。裁判の流れの中でインド政府の強権的な表現への弾圧や、"危険人物"とされる人物への(それすらそもそも政府の都合なのだけど)理不尽な冤罪のでっち上げなど前提の部分のきな臭さが見えてくるんだけど(もしかしたらインド社会の空気感としてはこれは物語の前提ですらあるのかもしれないけど)裁判については至って民主的に進む。原則の疑わしきは罰せずも厳守されるし状況や証拠、証人の信用性についてや論拠の合理性についてもとてもフェアに司法が機能している。
特に判事のおじさんが「自殺を煽る歌は歌ってないがこれからそういう歌を作る可能性はあると、、、んー、難しいですね」と苦笑いするところとか「うんうん、俺もそう思ってた」ってこっちも笑ってしまった。

▼法廷での姿と分断される彼らのオフの営み
ただそうして法廷で争われている各々の主張というのが法廷の外に出た時の個人の営みと分離している。
検事たちは「意思のある若者は応援したい」と言いながら表現者を政治犯としての罪に問う。合理的判断を下す判事がプライベートでは親戚に占いを勧める。階級社会で搾取される下層階級の現実を裁判を有利にすすめるために決して恵まれているわけでもない中層階級の検事がためらいなく利用する。苦労して無罪を勝ち取った被告が理不尽な容疑であっさり法廷に戻ってきても弁護士はその前提となる理不尽に対する強い抗議などは示さない。
法廷の中でこそそれぞれの役割というのが正しく機能しているけど、法廷の外に出た時その役割というのがそれぞれの立場と一致しない。そういう歪んだダブルスタンダード、大きな分断、ひいては社会全体の思考停止が徐々に映画全体の印象を上書きしていく。
健全に回っているように見えた司法すらディストピアの歯車の一つにすぎず、そこではルーティンとして狂言が演じられているだけなのかもしれない。みんなそれぞれの立場に安住して本質的な解決には向かわない。それは本質的解決を表現しようとすればこうやって逮捕される社会だと知っているからだろうし、正直その気持ちもわかる。
ファーストシーン、後に被告人となるおじいさんが弱い立場の子どもたちに"与える"行為をしているところから映画が始まる事も最も強烈な皮肉として記憶の印象が変わる。やっぱり彼がこの映画の中で一番筋が通っているということなのかな。

▼映画としてのユーモア
一見文脈的に意味がなく見える生活のパートも緊張と緩和の緩和側の描写として作品にユーモアをもたらしているから観てるだけで楽しい。他人の親が喧嘩してるとこに一人取り残されて超気まずいとか、宗教過激派に襲われて家に帰ってメソメソ泣いた挙句目の腫れを取るためにエステでスチームを浴びてるとこを無駄にじっくり映したりとか、普通にコメディのテンポもよくわかってる監督さんなんだろうと思った。
撮影的には法廷の外に出た時は登場人物を「その他大勢の中の一人」として映していてそれも中々皮肉が利いている。

テーマとしてはしっかり現実を捉えた話なんだろうということがインド社会に馴染みのない僕にも伝わってくる。
別にフィクションとしても世界観の強固さは揺るがないしね。端によく出来た寓話になるだけで。
面白かったー。

★★★★★★★☆ / 7.5点

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