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2017

映画レビュー:No.579 ビニー/信じる男(原題「Bleed for This」)

ビニー信じる男
117分 / アメリカ
公開:2017年7月21日
監督:ベン・ヤンガー
出演:マイルズ・テラー
アーロン・エッカート
ケイティ・セイガル
キアラン・ハインズ
テッド・レヴィン








この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




「というわけでビニーの感想書いたよ!」
私信は以上です。

シャンテは傾斜が強いのを良いことに背もたれが低くてホント座り心地が悪い。動線の作りも過疎前提かってくらいにヨロヨロだし使う度にしっかりしろよと思う。TOHO日比谷に生まれ変わったらマシュー・マコノヒーみたいにバキバキな機能性を身に着けてくれるだろうか。(例えがヘタ)

▼冒頭~"予感"の演出
冒頭、中々チャンピオンが現れずざわつく調印式の会場から映画が始まる。ボクサーが遅れてくる時ってのはそりゃあ宮本武蔵的な焦らし作戦でもヒーローは遅れてくる的な演出でもなく背に腹変えられんくらい計量に手こずっている時って相場で決まってるので、本作でも電話の向こう側にカットが移るとサランラップでグルグル巻きにされた主人公がゼエゼエ言いながらバイクを漕いでる。まあ主人公のファーストカットとしてはあまりカッコイイものではない。
この次にはドヤァと言わんばかりの横並びのスローモーションで主人公チームがカメラに向かって歩いてくるというキメッキメのカットが続くので、だったらさっきのシーンでは顔より下だけ映すとかにしてこっちを主人公の登場カットにしろよ!と思うのだけど、そう思った瞬間主人公の彼女が盛大にコケる。
このぎこちなさ、お約束外し感でこの後の右肩上がり端にガンと頭から押さえつけられるような乱高下する人生の予感が漂う。観終わるとまさに「超いいとこで台無し!」っていう展開の物語だしね。少なくともこの時点でもうスマートな主人公では無いんだろうって印象がほんのり脳裏に糊付けされる。

▼事故に至るまでのドラマの積み上げ
マイルズ・テラーが車で事故るというプロットは知っていたけれど事故が起こるまでも予想してたよりずっと長くて、まだ来ないのか、まだ来ないのかって腰の落ち着けどころを見失ってる間に一通りドラマチックな展開が通り過ぎてって笑った。
終わりの烙印を押された元チャンピオンが新しいトレーナーの元で二階級ウェイト上げて世界王座に返り咲くって並の映画ならこれで話が終わるぞってくらいの盛り上がりようなのだけど、ここが何ていうか端に落差をつけるためのドラマではなく普通に勝敗のロジックとかまできっちり描きこむ作りになってるのとか常に一球入魂で下位打線にも全力勝負してたら6回途中くらいでスタミナ切れてボコンボコンに打ち込まれだす投手の序盤の投球を観ているようで微笑ましくも心配になった。(そうなるとは言ってないぞ)
そんなこんなで散々盛り上げまくって最高潮に機運が高まったところで満を持して事故る。一応主人公が真っ赤な車に乗るところのカットとか不吉演出はあるっちゃあるけど、実話じゃなかったらこんな前触れなく事故とかマジで無しだからってくらい唐突に事故る。
そこまで割と主人公のだらしない面をちょくちょく描いておいてこの事故には過失が無いのかってあたりやるせない度が高い。

▼再起に至る主人公の情動
ここから首を骨折して脊損一歩手前から這い上がる主人公のドラマが始まる。彼は復帰の可能性の残る施術を選ぶも彼女には気味悪がられ、思うように体も動かず、最も自分を信じてくれていたコーチにまでセカンドキャリアの提案をされる。心の炎が消えかける。
「全てを失ってなお残る、それがアイデンティティ」ってのは宇多丸のスカイフォール評の一節だけど、全てを諦めかけた主人公は身辺整理に降りた地下室で自分の幼少時からの記録を観て最初から強かったわけではなかったことを思い出す。情熱と愛情を思い出す、というより情熱と愛情を持っていた自分がやってきた事を思い出す。自分を信じる、という感情を思い出す。
だから彼はハローベストの頭部固定機を付けたままトレーニングに励む姿を記録するし、ハローベストを取る時もその痛みや辛さを忘れないように麻酔無しで頭蓋骨からボルトを抜く。
クライマックスの試合の序盤、主人公はボクシングを怖がっているように見える。対戦相手ではなく不安と戦う事でいっぱいいっぱいになっているように見える。そんな彼を乗り越えてきた痛みや屈辱が経験となって助ける。

ちょっと個人的な話になるけど数年前に潰瘍性大腸炎を発症した時に併発した慢性的な貧血で全く走れなくなった。バスケをしててもコートを片道ダッシュするだけで目の前が真っ暗になって足が動かなくなるような状態で、鉄分注射とか薬とか色々試したけれど全部ダメだった。
入院して寛解はしたけれどすっかりモチベーションも無くなってもうバスケは辞めようかなって本気で思った。再発したらまたゼロになってしまうしそうやって自分にガッカリすることも、ガッカリされることも嫌だった。練習に顔を出せるようになってもチームメイトが「体調は大丈夫?バスケはできるの?」と聞いてくるのもとても辛かった。俺はやるからにはバチバチの勝負がしたかった。病気を言い訳にしたくなかったし、同情されたくなかった。だから辞めようかなと思った。
でもチームで出た大会の動画を観たり、練習に行ったりしてまたバスケがやりたくなった。復帰しようと思って、少しだけ頑張った。
だからビニーが自分を信じて努力する姿にとても共感した。世界チャンピオンの気持ちがわかるなんて言うとおこがましいけど全く同じだった。
変な話、ビニーは自分を信じれなかったらハローベスト治療法では治らなかったと思う。努力は報われるかどうかわからないけれど、努力をしなければ何も変わらない。彼は自分で自分の可能性を勝ち取った。

▼苦言~キャラクター描写のバランスの悪さとアクションシーンのリアリティ
正直一本の映画としては描き込みが不足していたりバランスが悪かったりする部分は結構あるように思う。
特にアーロン・エッカート演じるコーチと父親の信用度の対比があんまり上手く行っていないので、二人が指導法で対立するところでどちらの理屈にどのくらいの説得力を感じればいいのかシーンの意味が単純に見えない部分が多かった。
序盤のシーンで主人公は割とあっさりコーチに全幅の信頼を置いているし、そこに関してもなぜ彼が主人公にとって特別な存在になれたのかって件はもっと明確にするべきだったように思う。彼と主人公のやりとりではいいシーンが多かったけどそのほとんどは「信頼しあっているからこそ」って段階のものだった。「なぜ信頼したのか」をすっ飛ばすには彼は重要人物すぎる。
あと試合の描写もマイルズ・テラーが猫パンチだったり、当て振りに関してもカット割りや音でごまかしているような感覚があったり、最終ラウンドになっても顔が全然腫れてなかったりでここ最近続いたこの手のボクシング映画の中で最も説得力を感じられなかった。単純にアクションとしてリアリティが無いとシーンとして逆にダラダラしてしまうし、ディテールのツメの甘さは熱くなりたいところで冷静にさせられるようでホントもったいなかった。

面白いのはクライマックスで主人公と試合をするロベルト・デュランの伝記映画がカリコレで上映されている事で(ハンズオブストーン)、端に映画のジャンルとしても内容的にも並べて観ると面白そうなのでチェックリスト上位に格上げした。
映画としてはクリードやサウスポーと比べて相対的に評価が下がってしまう部分があるんだけど、好きなシーンはすっごく好きだった。
オススメしてくれたあべちゃんに感謝。

★★★★★★★☆ / 7.5点



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2 Comments

あべ  

うんうんと頷きながら読んだ〜〜
苦言のとこも正に!って感じ〜。欠点はあるけど、すげぇ大好きな映画だわ〜

2017/08/10 (Thu) 19:56 | EDIT | REPLY |   

けんす。  

Re: タイトルなし

いやー、面白かった。誰かがベストって言ってる作品は観ないとって気にさせられるね。
あべちゃんもブログで書いてたけどボクシング映画の物語の型ってのがある程度お約束で構成されてる分既視感とか表現の強度とかって意味で観た順番で有利不利が出てしまう部分もあるね。

2017/08/13 (Sun) 13:53 | EDIT | REPLY |   

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