03
2017

映画レビュー:No.584 釜山行き(邦題「新感染 ファイナルエクスプレス」)

新感染
118分 / 韓国
公開:2016年7月20日(日本公開:2017年9月1日)
監督:ヨン・サンホ
出演:コン・ユ
マ・ドンソク
チョン・ユミ
チェ・ウシク
キム・ウィソン
キム・スアン







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。



最近眉毛を育ててる。

▼ここんところの韓国映画の面白さは何!っていう話
上半期の立て続けの快作ラッシュに韓国映画という品質保証の信用性がただごとでは無いことになってきた昨今だけれど、去年の夏頃からヤベえヤベえとド級の前評判を撒き散らしてきた「釜山行き」が「下半期も韓国!2017年は韓国!」という流れを確固たるものにすべく満を持しての登場。
ちなみに主演のコン・ユさんはキム・ジウン監督の「密偵」にも出てる。上半期のファン・ジョンミンのように下半期の韓国映画の顔になっちゃう存在かもしれん。ちなみに本作の野球部の少年はオクジャで感じ悪いトラック運転手やってた彼って知って驚いた。
マ・ドンソクはいつものマ・ドンソク。ゾンビ映画に出るにはあまり縁起の良い名前ではないけど頑張って走ってる。
ちなみに公式サイトの日本向けコメント動画のマ・ドンソクはコメント撮りのまとめ打ちで自律神経がイカれてしまったのか半端ない目の死にっぷりで笑える。

▼物語のセッティング〜主人公の印象
タイトルが出てからゾンビが登場するまでは言ってしまえば感染爆発に向けた前フリなのだけど、ここでの主人公が右肩上がりに好感度を下げまくる鼻持ちならないクソ野郎で早くゾンビ出てきてこいつにお灸を据えてくれと不謹慎なお願いをしてしまうくらい人として相容れなかった。
多分こういう腐れエリートみたいな人物像が僕にとってはフィクションの中の存在だからだと思う。この世界のどこかにはこういう人はいるんだろうけど幸い僕の周りでは見たことも聞いたことも無いし、それ故にリアリティもあまり感じなくて端的に改心すべき悪いやつとして不愉快さばかりが前に来ちゃった感じ。
以前娘にあげたプレゼントを覚えてないとか忙しさにかまけてコミュニケーションを怠るとかもちろんダメだけど、何より子供相手に保身の為に自分に都合の良い言い訳をする大人が俺は大嫌いなんだよ。そういうの全部子供に伝わるし、そういう汚い大人像を見せることが一番教育上良くないのにこういう欺瞞的な大人に限って正しい教育みたいな美辞麗句を振りかざしやがったりするっていう。自分の成功体験が人生の絶対的正解だと思ってやがる輩。だから他人に対する想像力を著しく欠いてる。
ファンドマネージャーって職業の実利至上主義的な、まあ言ってしまえば人の失敗を食い物にしてて感じ悪いよねってパブリックイメージもモリモリ利用して最短距離でキャラクターの属性を説明するんだけど、最短距離ってのはお約束や類型と紙一重でもあって正直ゾンビ映画にドラマ的な重厚さとかそこまでいらないし早くゾンビ出てきて楽しいアクション的見せ場とか絵的な驚きをおくれ!と正直序盤は若干ダレ気味テンションで観てしまったところもあった。

▼画面の構図、カット割りの構成〜絵的な状況説明の抜群の上手さ
まあそんなこんなで舞台、人物と出揃って映画的にも程よく煮詰まったところで満を持してゾンビパニックが起こる。
演出的にもそれまでの平場とはキレが全然違くてじわじわとカタストロフに向けたカーブを描く中でめちゃめちゃスマートに人物の位置関係を配していったりトップギアに入った瞬間に一番「ヤベえ!!」ってなるような段取りを上手に踏んでる。
パニクって以降は完全に閾値を越えた乗車率な上に色んな人が色んな動きをしていて画面としてはちょっとくらいごちゃごちゃしてもおかしくないんだけど、常に今何が起きてそれぞれがどこにいてどれくらいの距離感でどのくらいピンチなのかというのが画面の情報として一切の混乱無く伝わるっていう驚異的な撮影、カット構成のセンス。電車って閉所の撮影でこの状況把握のストレスの無さは凄いぞ。オリヴィエ・メガトンあたりはヨン・サンホ監督の爪の垢煎じて飲んどけ(流れ弾)。

▼舞台が限定されることで生まれる展開の密度
舞台的な制約によってアクションや人間ドラマ的にもギュッと密度が上がっていて、一息つくみたいな場面もほぼほぼ無し。
状況的にも「とにかく逃げる」「助かったと思ったら助かってない」「ゾンビの中を強行突破」「ゾンビの中を隠密突破」「疑心暗鬼による人間同士の足の引っ張り合い」「自分たちを助けるためにあいつが犠牲に!」「自分だけ助かろうとしたのが皮肉なことに、、、」なんてな具合に参った、困った、勘弁してくれ、、、の三語をバリエーション豊かに引き出し続けてくれる。
しかもこれらが展開として必然to必然できちんと繋がっていくという半端なき脚本。ちゃんと全部ロジックがあるんだよなあ。うわっ!追いつかれる!って瞬間にゾンビ同士がお互いにつまずいて間一髪とかそういうさり気ないところまでバッチリの完パケ納品スタイル。ガラス越しのゾンビの視界の防ぎ方一つにしても一々フレッシュ!って言わせてくれるたまらなさ。
あまりの面白さに途中で信頼が全幅に至ってしまって「ここから急につまらなくなるなんてありえない」と身も心も作品に委ねてしまったよ僕は。しかもちゃんとその通りに最後まで減速しないからなあ。ぶったまげた。

▼キャラクター、人間ドラマの印象
奥さんが妊娠中の夫婦(夫はマ・ドンソク!)、姉妹のおばあさん、野球部、ホームレス、バス会社のおっさん、そしてもちろん主人公親子とそれぞれのちょっとした印象が後でしっかり展開の中で回収されるし、それも含めて喜怒哀楽全ての方向できちんと感情を揺さぶられるとてもゾンビ映画らしい人間ドラマの味わいだった。
さっきゾンビ映画に重厚な人間ドラマとかいらないなんて言ったけど、だからこそ人間がゾンビになる瞬間の走馬灯の描写のエモーショナルさに不意を付かれてボロンボロン泣いてしまった。
列車は映画と相性が良いってのはよく言われるけど、本作の場合列車が走っている間の出来事っていう劇中流れる時間の間隔の狭さが「ついさっきまで人間だったのに!」っていう切なさをより強調する効果がある気がする。

正直言うと僕は最後に主人公たちの前に立ちはだかるバス会社のおっさんに関しては決着がつく瞬間くらいまで自業自得かつ因果応報な形で反省と後悔を促しながら死なさなきゃバランス取れないだろう!といつものように物語的な責任の落とし所に厳しめの目線を向けてたんだけど、あいつの生き延びるために手段を選ばない鬼畜の所業の数々は主人公のそうなったかもしれない姿でもあるので最後の対決と決着についてそこにある成長とその切なさ、何を守れて何を防げなかったのかまでエモーションが溢れた。

面白いだろうって期待してたけど予想をはるかに超えてぶっ飛ばされた。
早くもう一回観たいー。

★★★★★★★★★ / 9.0点

邦題についてだけど、僕はそもそも邦題って考え方があんまり好きじゃない。
タイトルって作家のもんだろうと思うし、せめて直訳が筋だろうっていう事がほとんど。ガーディアンズの2でジェームズ・ガン監督がTwitterでの日本のファンとのやり取りで「俺は何も聞いてないから日本の配給に問い合わせてみるね」的な事を言ったって一件があったりしたけど、そういう作り手にとって翻意じゃない改変ってのは作家に対する敬意を欠いていて本当に腹立たしい。
別に良い邦題もあると思うけど、その意味で言えば今回のは最悪だと思うので、出来るだけ口にしないようにしてる。


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