05
2017

映画レビュー:No.587 すばらしき映画音楽たち(原題「Score: A Film Music Documentary」)

すばらしき映画音楽たち
93分 / アメリカ
日本公開:2017年8月5日
監督:マット・シュレイダー
出演(ドキュメンタリ):ハンス・ジマー
ダニー・エルフマン
ジョン・ウィリアムズ
ジェームズ・キャメロン
ハワード・ショア
スティーブン・スピルバーグ
ジャンキーXL







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。



トレント・レズナーはとても良い劇伴作家になったけどその分Nine Inch Nailsをサボってるってことだから僕は認めてない。

▼横断的にも縦断的にも楽しめる多角的な解説ドキュメンタリ
ハンス・ジマーにトーマス・ニューマン、ジャンキーXL、アレクサンドル・デスプラ、ブライアン・タイラーにダニー・エルフマン、トレント・レズナー & アッティカス・ロスなどハリウッド劇伴シーンでエース兼四番級の仕事をしている錚々たるメンツがこっちが考えてるより何倍も多角的かつ丁寧に劇伴作家の仕事を解説してくれるドキュメンタリ。
作曲アプローチや録音過程、スタジオ選びや音(楽器)選び、締め切り、ミックスについて、映画のジャンルごとの類型的な劇伴、裏話、各々の方法論と信念などこれでもかってくらい色んなことを話してくれる。
時代時代のエポックメーカーに言及することが今に至るジャンルごとのスタンダードな音がどう構築されたかの解説になっていたり必然的にかなり縦断的な内容にもなっている。
「HOW TO RAP 104人のラッパーが教えるラップの神髄」って本があるんだけど、扱う表現のジャンルは違えどこれとアプローチ的に結構近い作品な気がする。



▼裏話、エピソードトークの面白さ
どの業界でも裏話ってのは面白いもんだけどこの映画においてもハリウッドの超絶スケールな映画の超重厚な音楽を作る人達ならではのぶっ飛んだエピソードとか、逆にしょーもないエピソードとか、天才的な仕事をしている作曲家達の人間的な側面で笑わせてくれる。
「仕事を依頼された時は超浮かれるんだけど、その日の夜には「荷が重い...」って不安になって、最終的に「全部ジョン・ウィリアムズにでも頼んでくれよ!」って自暴自棄になるんだよねえ」とか言ってるのが何を隠そうあのハンス・ジマーだったりする。
ブライアン・タイラーは映画館で観客の生の反応をチェックするために上映後にトイレの個室にこもるらしい。本人曰く印象的な映画音楽の作品を観ると観客はトイレで口ずさむんだってさ。僕も今後いい劇伴のついた作品を観たらトイレでこれ見よがしに鼻歌吹かしてやろうと思う。
他にも珍しい音が欲しくて今回以外もう一生使わないだろってトイピアノを60ドルもかけて買っちゃって、使い終わったら即売っぱらったって話とか笑えるポイントも本当に多い。
特に僕が好きだったのは締め切りについて話してるパートで、まだ音楽が完成してないのに街のポスターに自分の名前が載ってると焦るとか、何かにつけ「莫大な制作費の掛かった作品だからな」ってプレッシャーをかけられるんだけどそれでモチベーションなんて湧くはずもなくただただ元気がなくなるって話とか、しまいにはアルマゲドンでは「公開日まであと○○日」って特製のカウントダウンタイマーをもらってたりとか(これはまあアルマゲドンの内容とかけたギャグでもあるんだろうけど)、色々同情する。笑(注:みんな違う人です)

▼解説パートのクラシックを相対化する面白さ
解説パートにしたってサイコのシャワーシーンをして「あんなの音楽無かったら全然面白くないし、映像がなけりゃ聞くのも辛い劇伴だ」とか身も蓋もない事言ってて、普通に語り手としてみんな面白い。でも「今となっては」みたいな部分をリアルタイムの視点から「いやいや!ねーべ!笑」って笑えるのは実はめっちゃ貴重だと思う。
それでなくても音楽が使われた映画の場面や録音時に演奏してるとこを観ながら作曲家の話を聞くのは超わかりやすいし超面白い。
"モチーフ"の変奏を用いる音楽演出のメソッドとか、オーケストラ、ジャズ、バンドなど音色や楽器、音楽ジャンルと映画の親和性の変遷とか基本の「き」みたいな部分にも「その基本ってのはこの時代にこの人が始めてね」って具合に丁寧に解説してくれる。
普段当たり前のように聴き流してしまう映画音楽がいかに映画の印象に貢献していて、いかに僕達の感情を揺さぶっているかがわかる。
同業者から観て「あいつヤベえ」と思った作家について語るパートではトーマス・ニューマン、トレント・レズナー&アッティカス・ロスと僕の好きな劇伴作家がフィーチャーされてて嬉しかった。
トレント・レズナーはソーシャルネットワークの依頼をもらった時「腕が鳴るぜ!と思ったけどFacebookの映画と聞いて「はぁ?」ってなった(意訳)」みたいな事言ってて笑った。

本作の場合引用される作品は劇伴としてメジャーなものばかりで、誰が聴いても何の作品の音楽かわかって流れただけで否応なくアガるアンセム中のアンセムがこれでもかと並ぶわけだけど、例えばポップミュージシャンと彼らで大きく違うのは彼らの場合歴史的な名スコアを一つ生み出したからと言って「はい、辞めます」という仕事では無いということだと思う。何なら結局名スコアになるかどうかは作品の出来による部分も大きい。
でもこうやって映画音楽として改めて引用されるような好スコア、もしくは良作に関わる仕事に限らず彼らは常に絶対的な影響力で作品に貢献している。その底知れないクリエイティビティに改めて敬意を抱いた。
ジャンキーXLの言う「自分が鳥肌立つものを作るって事が最低条件」っていう、その姿勢に感動するよ。多分報われなかったり過小評価されたりすることの方が圧倒的に多いんだろうけど本当にすごい仕事だと思う。

★★★★★★★★ / 8.0点

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