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映画レビュー:No.643 ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
158分 / アメリカ
公開:2007年12月26日(日本公開:2008年4月26日)
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス
ポール・ダノ
ケビン・J・オコナー
キーラン・ハインズ







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




おじやの食べどきを見極めるのがヘタでいつも口の中をヤケドする。

▼ポール・トーマス・アンダーソン監督の作家性と本作
去年パンチドランクラブを観てポール・トーマス・アンダーソンが俄然好きになった。フィルモグラフィを貫くメインモチーフを持っている作家って面白いよね。
パンチドランクラブの感想は自分でもかなり気に入ってるので、ネタバレもしてないし良かったら読んでみてください。ちなみに今回の感想は全然ネタバレしてます。こっちが平常運転。

彼の作家性で言うと「資本主義で分断される個人」どころか資本主義そのものみたいなバケモノが本作の主人公。
成功がそのまま人生というような人物なんだけどこの映画自体はどこまでいってもサクセスストーリーにならないところに寂しさがある。ファウンダーもそうだったけど優秀なビジネスマンは突き詰めるとサイコパスになる事が往々にしてあるようで、人間味を損なわずに成功するのは難しいなあと思う。
彼は全てを手にしたけど映画を観るほとんどの人が持っているものを持っていない。一言で言えば彼は孤独で、しかしそれが孤独という感情であることも、どこからきてどうしたら解放されるのかもわかっていない(そういう説明があるわけではないんだけど)。自分が何を欲しいのかわからないし、わからないから手に入らない。

▼主人公が本当に欲しかったもの
主人公のダニエル・プレインビューは"幸せ"になりたかったんだと思う。劇中二人ぶっ殺すんだけど、それはどちらも「てめえ俺を利用して幸せになろうとしてんじゃねえぞ」という事だし、息子を勘当するのも商売敵になるということよりも彼が自分の人生を見つけたことを認められないからというように映る。
買収を持ちかけた石油会社と破談するキッカケも息子のことを出された主人公の「お前は俺を不幸な人間ということにしたいみたいだけどな」という怒りに端を発する。
彼は自分が幸せになれていないことを認めたくない。でも彼は自分以外は全員敵に見えてしまう。利害を通じてしか人と交われないし、そんなだから利用はあっても協力は無い。だから彼は結局孤独になってしまう。

▼反復という映画的語り口
穴を掘る。ドロリと液体が流れ出す。主人公の成功を象徴するそれらの描写が破滅のモチーフとしても何度も繰り返される。良い時も悪い時も彼は穴を掘って、何かが染み出してくる。

反復で言うとパイプラインとビンタのやり取りもとても印象的。
主人公が息子の失聴の八つ当たりに福音派宣教師のポール・ダノをしばく。まさに息子の失聴の直接的要因となった爆発事故で湧き出した石油を運ぶパイプラインのふもとで。今度はパイプライン増設の土地買収を巡って何年越しかの仕返しにポール・ダノが洗礼にかこつけて主人公をベシンベシン殴る。これぞマウンティング!という二人の関係は最後の最後まで続く。
そしてそこまで屈辱にまみれてようやく作り上げたパイプラインの前で主人公は息子から積年の恨みのたっぷりこもった渾身のビンタを浴びせられる。まあ息子にとっては石油産業は裏切りの象徴だったろうにそこで「ごらん、パイプラインだよ」なんてゴキゲンに言われたらそりゃキレるわな。笑

単に出来事を映しているだけじゃあ2時間半の映画がこうも面白くはならない。特に「わからなさ」に一貫性を持たせるのは人物の描き方として確かな目を持っていないとできない。逆に一貫しているからわからなさに解釈を持つことが出来るとも言える。
パンチドランクラブも表面的な出来事の奥から観客に投げかける感情がとても豊かだった。ポール・トーマス・アンダーソンのそういう部分がとてもいいなと思う。

▼映画の余韻~始まりと終わりを思い返してこみ上げる感慨
冒頭で一人ぼっちだった主人公が掘り当ててしまった「これで俺も何物か(=一人ぼっちじゃない人間)になれるかもしれない」という希望が彼を本当の独りにしてしまったのかと思うと切ない。思い返せば掘り当てた金の見た目の石ころ感に「こんなもので人生狂ったのか」というやるせなさがあるように思う。
結局彼にとって人生は何なのかわからないまま成功も破滅も通り過ぎてしまったようで、ただの石ころから始まり「I'm finish」のたった一言で終わる、それだけの人生だったのか、という余韻がギュッと胸の奥に残る。

★★★★★★★★☆ / 8.5点




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