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映画レビュー:No.648 スプライス

スプライス
104分 / カナダ、フランス合作
公開:2010年6月4日(日本公開:2011年1月8日)
監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
出演:エイドリアン・ブロディ
サラ・ポーリー







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




昔から洋服の捨て時がわからない。

▼「難しくなくて面白い映画」の判断基準について
この日は難しくなくて面白い映画の観たい気分だったのでスプライスを観ることにした。「難しくなくて面白い映画なんて観る前からわかるわけねえだろ!」と感じられたらそれはごもっともなのだけど、宇多丸がシネマハスラーしてくれている作品は僕にとってこのくらいの安心保証がついてしまう。
数年前していたマンガアシスタントの仕事中はラジオが聴き放題だったので当時アーカイブが残っていたシネマハスラーはあらかた聴き尽くしたはずなのだけど、ラジオを聴くという目的じゃないと思ったより頭に入らないもので結局「宇多丸の映画の話は面白い」というこちらの信頼だけが残った。
過去のポッドキャストが全部消される事になった時にアーカイブは全て保存したので、今はその中から何となく面白そうな作品を"難しくなくて面白い作品が観たい時に参照するリスト"にリストアップしてある。

▼設定の巧みさ
メタファーを挟むことでとても上手にタブーを犯していて、上手いこと行っているのを良いことに全編通じてこれでもかと生理的不快感を刺激してくる中々悪趣味な映画だった。
ジャンルで言うとホラーに分類されるのかもしれないけどこれ見よがしに怖さを煽ったりビックリ箱的な悪意のある演出だったりはほぼほぼ無く、その代わり嫌悪感に訴える描写がたっぷり詰まっている。
真っ当なモラルを持った人が真に受けてしまうと心底不快だと思うけど悪趣味な場面の裏側で爆笑する作り手まで透けて見えるくらいある意味突き抜けてフィクションにしか感じられないレベルなので、こっちも割と素直に指差しながら楽しむことが出来た。
言うなれば設定によって「思いついてもやるなよそれを」というモラル的な是非は回避できていると思うわけ。

▼愚かな人間の話
相変わらずこの手の映画に出てくる科学者は人類は優秀だし自分はその中でも特に優秀だという無意識のおごりがヒドくて、「なんでそんな風に何も分からない生き物に近づけるのか」という迂闊さが序盤は結構目に余る。
その手のモンスターパニック映画を観てさえいれば絶対そんな態度は取らないはずで、勉強の面ではボロ負けでも未知の生物を前にした自己防衛意識に関してはこの主人公達よりも僕の方が数段優れている。映画が有る世界線に生きてて良かった。
まあこの映画の場合はそういう、時々客観性を見失ってしまう人たちの話ですというのが物語のテーマとも一致しているので段々気にならなくなってくる。主人公間のやり取りも含めてここまで真っ当な説教をされまくる主人公たちも結構珍しい。
序盤にどうしても一線越えないといけないのはそれをやらないと話が始まらないからで、その脚本上の都合には「ちょっと考えりゃそれはまずいってわかるだろ」と思っても目を瞑ろう。

▼理性の不確実さ
人物描写の過不足無さと展開の合致がスマートで感心するんだけど、この映画はむしろその先にある「人の理性のままならなさ」の描き方がとても優れていると思う。
主人公夫婦はそれぞれ自分にとって都合の良い形で「家族」と「他者」という関係性を使い分けるのだけど、それを無意識で行っているところがとても欺瞞に満ちてていやらしい。
とはいえ誰だって理性的な判断が入る余地が無いほど感情が先走ることはある。特に「異性間」と「家族間」においてはそれぞれその方向は全然違うけどどちらも自分を見失ってしまいがちな関係性ではあると思う。
自分の中にある正しさは状況によって変わるものだという皮肉がわかりやすい。

▼観客の印象を揺さぶる新種生物の造形
何より結合して生まれたドレンの造形が本当に素晴らしくて、許容できる範囲が人それぞれという見た目のバランスが「自分も彼らと同じ轍を踏んでしまうかもしれない」という気持ち悪さをより強めている。
展開を考えると全員が気持ち悪いと思ってしまっても、全員がこれなら平気と思ってしまっても、映画としては失敗してしまう。嫌悪感と感情移入の間を絶妙に行ったり来たりするドレンの存在感が作品のリアリティに必要不可欠で、観客にもドレンをどう見るのかを試してくるような部分が面白いし「ウゲッ!」となる。

▼映画のたたみ方への苦言
クライマックスは伏線で上手く作ってはいるけどテーマ的な部分に何も絡んでこないので個人的にはややテンションがしぼんでしまった。
主人公たちに真っ当な説教をした二人が無駄に殺されてしまうというよくわからない因果応報が別に見世物的な残虐描写として機能するわけでもなくて微妙な気持ちになった。やっつける描写も工夫がないし「物語をたたむのにきれいな展開が思いつきませんでした」っていう置きに行った感が既視感として画面に出まくってる。
ただ演出的にはカメラアングルでタメるとこタメたり細かい見せ方の配慮とかが好ましくはあって、「ああ上手い人が撮ってるな」って場面設計の工夫は随所に感じる作品だった。

ジャンル映画への造詣が浅いのでジャンルムービーと態度を割り切るようなこともなく素直に楽しめた。期待通りの「難しくなくて面白い映画」で余は大変満足である。
ちなみに宇多丸の評論はほとんど最後までネタバレしてて逆にどこにどう配慮してたのか気になるくらいだったけど、めちゃめちゃ楽しそうに話してて沢山笑った。

★★★★★★★☆ / 7.5点

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