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映画レビュー:No.655 ルイの9番目の人生(原題「The 9th Life of Louis Drax」)

ルイの9番目の人生
108分 / カナダ、イギリス、アメリカ
公開:2016年9月2日(日本公開:2018年1月20日)
監督:アレクサンドル・アジャ
出演:サラ・ガドン
ジェイミー・ドーナン
アーロン・ポール
オリバー・プラット
エイダン・ロングワース







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




父方の祖母の葬式において何百人という規模の参列者が静まり返る式の最終盤に正座を解いた瞬間つんのめってベチョンと転んだ時、僕は明確に一回死んだ。

▼映画が語る"物語"の機能について
言うまでもなく映画っていうのは"作り話"だ。みんな気づいていないかもしれないけど僕たちは松岡茉優でもライアン・ゴズリングでもないし、そう簡単に地球は危機を迎えないし、普通人は死んだら生き返らない。
物語と観客の関係はいつだってフェアじゃない。だからこそ時には画面に映る現実を疑ってかかる必要がある。

▼矛盾を内包する「重層」と「円環」の構造
ルイの9番目の人生はわかりにくい。なぜわかりにくいかというと語り口がブレるからだ。
時制が前後にブレる。主人公であるべき視点がブレる。リアリティがブレる。その隔たりのはざまにストーリーテラーの存在を認めることがこの物語の"ミステリー"の本質だと思う。
なんて偉そうに言っているけれど僕も観ている間は大いに混乱した。見終わって思い出せる範囲で仮説を立てただけで全てにおいて当てはまる解釈はまだ見つかっていない。

この物語は「重層」と「円環」という構造を持っていると思う。劇中で語られる出来事の裏側には残酷で理不尽な身も蓋もない現実があって、誰かにとってそういうものと戦うために物語がある。もしくは単純に時間軸として二重の意味合いがある。円環というのはもちろん「初めに戻る」という機能を指す。
そうやって時間、主観、リアリティを渦を巻くように何重にも折り重ね、それを映画という一元的な時間表現の中に閉じ込める。そこにどうしても内包される根本的な矛盾が時として解釈を見えづらくするのだと思うし、僕としてはこちらの方がより強かったのだけれど、多重立体的な物語に対して観客が能動的に読み取っていく面白さになっている。
例えばマンガや小説のようにすぐに遡って解釈を定めることが出来る表現媒体と違って映画というのは常に一定のフェアさ、いうなれば親切さが求められる。そこにおいてやや評価が分かれそうな匂いはする。

▼二人の主人公の関係性~表面的な並列と裏側にある直列のトリック
物語には語り部たるルイ・ドラックス少年と成り行きを見つめる医者のアラン・パスカルという二つの主人公の目線が存在する。
夢で出会う異形の存在や筆者不明の手紙の正体、クライマックスの心理療法による独白の展開を考えると二人が同一人物という軸になる一つの解釈を持つことが出来る。
おそらく最初にパスカルが登場するカットの繋ぎからすでに暗示がされていて、彼の研究領域も、演説内容もルイの現在とリンクする。ルイとパスカルの関係性というのは表面的には「並列=同時に存在するもの」として描かれているけれど、ここに「直列=過去と未来」という解釈ができるところにこの映画の円環と重層のトリックがある。

▼多層構造と多軸構造と寓意が渾然一体となった語り口
段階を追って俯瞰していけば、ユーモアと愛情で現実をたくましく受け入れる少年の物語でもあり、青年になった主人公が過去の悲しい真実と向き合う物語でもあり、さらにそれすらも含めて昏睡状態の少年が見た一つの希望のようにも見える。
例えば海と洞窟というモチーフは母体のメタファーにもなりえる。ラストカットで開く目には居心地のいい胎内から混沌の現実に飛び出す覚悟はできたかい?という再生のサイクルが込められているようでもある。

「父との別れの話」と「母を受け入れる話」という2つの物語の軸があって、それらは同時進行していないという解釈もできる。描かれるボーイミーツガールは父親の物語にも映る。映画としてはラスト付近に来る出来事も時制としては全ての始まりに当たるかもしれない。懐妊したナタリーとそれを迎えに来たパスカル。お腹の子供。彼らは誰なのか。
多層構造と多軸構造と寓意が渾然一体で、それはまあ混乱もするよねって感じ。表面的な出来事も場面ごとに見え方がどんどん変わっていく。

僕はこういう観客の能動性を促す物語機能が好きだ。作り話だけに許される切実な自由だと思う。
誰だって物語を必要としているし、だからこそ映画が自己肯定することを僕も積極的に肯定していきたい。
機会があれば今度は最初から解釈を持ち込んでストーリーテリングを味わいたいと思う。
とても面白かった。

★★★★★★★★ / 8.0点


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