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映画レビュー:No.656 羊の木

羊の木
126分 / 日本
公開:2018年2月3日
監督:吉田大八
出演:錦戸亮
木村文乃
松田龍平
北村一輝
水澤紳吾
市川実日子
優香
田中泯
安藤玉恵







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




湯たんぽに勝る防寒を知らない。

▼ユーロライブでの先行試写~Q&Aの様子を簡単に
ユーロライブでの特別試写で一足早く観賞。上映後に監督Q&Aがついていてなぜか不躾な質問がバンバン出る中全てに丁寧に答える姿勢がとても好ましかった。
僕も折角の機会なのでどういう風に題材を選んでいるのか質問した。原作者二人は影響を避けられないほどの存在であるということ、その上でここまで強固な設定から始まる物語は初めてで今までと違うことが出来るのではと思ったことの二点をあげられていた。なるほど。

▼強固な設定とつかみの演出
「今日から市の事業で6人市民を受け入れるからお迎え行ってきて」とパシられるいかにもレペゼン公務員な市役所づとめの主人公錦戸亮。
ここで順番に現れる6人それぞれの「何かヤベえやつが来た」という演出が掴みとしてとても面白い。吉田監督は人物を行動で説明するのがとても上手で、それは人物の距離感の演出としてもとてもスマート。想像の余地に面白さを託す上品さがある。
監督も言っていた通り更生プログラムとして殺人犯6人を受け入れた件を一人で抱えないといけないヒラの地方公務員って設定がとても優秀なので普通にやれば面白くなるんだろうけど、さすが吉田監督だけあって「はい面白い映画始まった。5億点。」と言わせる演出をしてくれる。

▼登場人物の印象を観客に委ねることで生まれる緊張感
「彼らは殺人犯だ」という目で登場人物を見つめる事が他者のわからなさへの不安や他者をわかった気になるという欺瞞の危うさを観客に投げかける。加害者らしさ、というレッテルが相互理解を阻害する。
その不信感をサスペンスの肝に据えるところに映画と観客の緊張関係がある。
自分の安寧や安全地帯、安定した世界が他者によって踏みにじられたり壊されたりする物語というのは吉田監督の作家性の一つだと思うけど、本作も"信じる"という事について優しいけれど甘くない視点で描いている。

▼狭くなっていく物語の惜しさ
途中から物語として伝えてほしいことを伝える役割を終えたキャラクターから露骨に退場していくのだけど、それによって展開がどんどん想像の範囲に収まってしまうのが惜しい。
正直新聞見て探しに来ましたという人物が一番悪巧みのたくましい北村一輝のところにたどりつく展開なんか破滅のパターンとしては一番凡庸な気がしてしまう。サスペンスを作るにしても松田龍平と錦戸亮の関係において第三者の視点を加える形で揺さぶった方が意外性も広がりも出て面白かったんじゃないか。
演出面で言ってもクライマックスに向けて松田龍平にノコノコついていく主人公は行動原理が破綻しているように見えて大事な場面なのにノイズが多い。
市川実日子のキャラクターに主人公たちと関係ないところで再生の希望を託すのは群像という映画だからこそ描ける特長の活かし方としてとても良いと思うので、その点田中泯や水澤紳吾のキャラクターにも人物を描ききってからこそドラマに還元される役割を与えてほしかった。
田中泯に関してはヤクザの前フリもあったし描き込みというより脚本としてもう少しやり方があったんじゃないかと思う。

▼人間の複雑さとわかりあうということ
街の守り神とされる「のろろ」の伝承が「村の外からやってきて村人と対立した挙句倒されて守り神になった」という内容なのが象徴的。
変われない自分、変わりたい自分、他者の中にある自分と自分の中にある自分。
良い人、悪い人という単純化を拒んでいるし、登場人物本人すら自分の事がわかっていないように、理に落とさない人間の複雑さを見つめる目線がある。
途中で木村文乃が言う「わかっているから付き合うんじゃなくて、わかりたいから付き合うんでしょ」というのは人間関係において死ぬまでつきまとうジレンマであり命題的な問いで、それによって辛いこともあればその先に希望もある。
やけっぱちになるのは簡単だけど人を信じるという行為は苦しむだけの価値があるんだと言っているように思う。
吉田監督は正しくなさを否定しない(これは「肯定する」とは違う)。そういうところがとてもいいなと思う。

▼セリフについて
安藤玉恵の「私が感じたことは何なの!?」というセリフや優香の「私は一生誰かを好きになったらいけないんですか?」という問い、前述した木村文乃のやりとりなど結構明け透けにテーマを言葉にする感触が強かった。
吉田監督らしくないというか、単純にそんなに言葉にしてくれなくてもいいよという気持ち。
全体としては語りしろが多くそれがとても面白かった。

★★★★★★★ / 7.0点




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