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映画レビュー:No.658 タイニー・ファニチャー

タイニーファニチャー
99分 / アメリカ
公開:日本での劇場一般公開なし(2018年1月28日限定上映にて観賞)
監督:レナ・ダナム
出演:レナ・ダナム
ローリー・シモンズ
グレース・ダナム
ジェマイマ・カーク
アレックス・カルポフスキ







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。




チェストパスが苦手。

▼マンブルコアというジャンル
マンブルコアというジャンルになるらしいんだけどどういう作品がそれに当てはまるのかネットとかで調べてもイマイチピンと来ない。
特に身内をキャスティングしてるかどうかなんて良質な作品になればなるほど画面から感じることはできないし、それ以上にわかりやすいトレードマークもなさそうなので今のところは概念として自分の中にあまり定着しそうにない。
今後僕がマンブルコアという言葉を使ってる時は大体当てずっぽうだと思ってください。

▼モラトリアムのユニークな描き方
モラトリアム期を描く作品は沢山あるけれど責任や成長という自立に至る結末ではなく「もう少しモラトリアムしていていいでしょうか?」という甘やかしの徹底がユニークなところ。
監督本人が主人公を演じているのだけど彼女自信の実人生が割と赤裸々に反映されているらしく、つまり現実ではこの後きちんとモラトリアムを創作の糧にしてこういう映画を撮っているというしっかりした後日譚がつく。
単に映画から「モラトリアムできる選択肢が有るうちは甘えたっていいよね!」と安易なメッセージを受け取ると痛い目に遭うので注意が必要。
上映後トークショーに登壇した宇多丸の場合もそうだけどモラトリアムが笑えるのはちゃんとその後成功なり自立なりした人が話ししてる場合に限る。

▼客観のユーモアが描ける大人な目線
顔のないキャストが演じることで立ち上がる登場人物の実在感は強い一方で、それをわかりやすいコミカルさのような誇張された味付けでなくとも面白く提示できるのはユーモアセンスとしてとても大人な目線を感じる。「面白さ」ではなく「面白くなさの客観的な滑稽さ」を捉えるのが上手い。
客観目線の皮肉のユーモアを見せるのが上手い作家はいるし、自分のダメさをコメディに取り入れられる作家もいるけど、その両方をリアルタイムにしっかり自覚している表現が作れるのはやっぱりセンスが無いと出来ない。

劇中の主人公はとてもこの映画が撮れるような人物じゃない。
自分の経験に置き換えて考えれば過去の自分のイタさは数年後に振り返ってやっと俯瞰できるものでその渦中にそれを自覚することの難しさは誰しもがわかると思う。俯瞰して見れるならもう少しまともな人間になってるしね。笑
彼女がその絶妙なダメさをそのまんま面白さとして描けるのはクリエイティブな一家で育った批評性や感受性なのかもしれない。
何にせよ誰にでもある一瞬を誰でも出来るものではないやり方で映画にしてる。高度なレベルでバカを装ってみせる天才。

▼主人公の抱える孤独感
大学を卒業して実家に出戻りした主人公は男と別れたてでこれと言った友達もいない。家族のようにクリエイティビティの情熱を注げる対象もない。見た目もイマイチ。
すべてが中途半端で心の拠り所を持たない"何物でもない自分"と直面する。
疎遠だった友達と再会して突き放せずなあなあな付き合いを再開したり、とりあえず身近な男に向けて本当に最低限のアピールで女としての承認欲求を解消を期待してみたり、母や妹に添い寝を打診して次々と断られたり、遠回しかつ消極的に自分を見つけてもらおうとする。
その根底には自分は誰かにとっての代えのきかない存在ではない、という絶望的とまでいかないがゆえにジクジクする孤独を抱えている。
アイデンティティの無さを人間関係で解消しようとしてるんだけどアイデンティティが無いからパーソナリティを見てもらえない、というジレンマ。
よっぽど無条件でちやほやされる人生とかで無ければ誰だってこの孤独感は身に覚えがあると思う。

▼「他者の気持ちがわかる」という物語の役割
トークショーで宇多丸も言っていたけれど、ニューヨークの成功した芸術一家で育ったこまっしゃくれた女の子という文字通り僕とは住む世界の違う人間にも同じように満たされない孤独や鬱屈が有ることがわかる。
自分とはとても遠い存在の他者の気持ちにシンパシーを覚える、気持ちがわかるというのは映画というメディアの最もユニバーサルな機能だと思う。
世界にはいろんな人がいるなって思うことと世界には俺と同じような人がいるんだと思えること、それは矛盾ではないんだと実感できることが物語の面白さだ。

現状中々観る機会は限られると思うのだけれどチャンスがあったらぜひと言いたい。オススメの一本。

★★★★★★★★ / 8.0点



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