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映画レビュー:No.660 スリービルボード(原題「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」)

スリービルボード
115分 / アメリカ、イギリス
公開:2017年11月10日(日本公開:2018年2月1日)
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド
サム・ロックウェル
ウディ・ハレルソン
ジョン・ホークス
ルーカス・ヘッジス
ピーター・ディンクレイジ
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ







この記事はネタバレを含みます。ご了承ください。





今年はモノトーン以外のファッションセンスを身に着けたい。

スリービルボード
ファンアート描きました。



▼出来事の連なりと人物の内面的変化の特筆すべきバランス感
劇中で起きる出来事の連なりと登場人物の内面的変化は基本的にどちらかに作品の手触りが偏っていく事がほとんどだし、それ自体別に悪いこととも思わない。
見せ場の強度や因果関係のロジックで映画を見せきるハイコンセプトの面白さ、偶然からドラマやテーマを読み取っていくソフトストーリーの作劇、どちらも僕は大好物だ。
ただスリービルボードの特筆すべきところはそのどちらの質感も高い順度で残しているところにあると思う。起きる出来事で追う物語の流れはとてもわかりやすいし出来事自体も結構な出来事が次々起こる。一方で脇のキャラクターまで絶えず人物の印象が変化して味わい深い感情移入がある。

パンフレットで監督が「腹を立てた母親が看板を買う話にしよう」というところから脚本を書き始めたと言っていてあまりのシンプルさに笑ってしまったのだけど、そうやってテーマや人物という内面性、作品の核に近い部分から膨らますのではなくアイデア一発の面白さから脚本を発想できる人だから即物的な面白さを欠かさない映画が作れるのかなと思ったりもした。
もちろん人物を見つめる視点もとても確かなのだけれど、そちらは役者に託している部分も大きいんだろう。
ただ、決して普通ではない人物たちをきちんとリアリティに内包して描けるバランス感覚は作り手の演出手腕にあると思う。

▼他者と生きるこの世界
例えばホワイトトラッシュや小人、黒人、もしくは差別主義者という言葉まで、それらの持つステレオタイプやそこに生じる線引きの響き、そこにある思い込みの不寛容や無知から来る不安はどうしても避けられない場面があると思う。こっちがコントロールできる範囲を越えてしまう部分も含めてね。
この映画には第一印象通りの人間はいない。それは僕達の生きる現実も同じで、だからこそ相手に対して想像力を働かせることは大事だ。怒りではなく愛で他者と繋がることが、報復ではなく赦しが、救いになる。僕の大学の恩師の表現が素敵だったので引用させてもらうと「人は最善の選択が出来なくとも、互いの関わりからベターな選択が見出せるかもしれないという希望」を描いている。
劇中ではどこまでも彼らの選択にハラハラしてしまうけれど、だからこそその先には人間の尊厳や他者の存在をやっぱり信じたいじゃないか、という絞り出すような世界への肯定があるのだと思う。死という取り返しのつかない喪失もあれば未熟ゆえに大きな失敗をしてしまうこともある。人生の難局にきちんと向き合える人間のほうが少ない。それでも人生は続く。自分の足で立ち上がらなければいけない。
とはいえラストシーンもとてもオープンな演出をしていて、最後まで観客に問いかけ続ける。つくづく大人で上品で甘くないバランスを保ってる。素晴らしい。

▼劇中世界を生きる人々~全ての人生を尊重する作り手の器量
3枚の看板は巧妙な作戦なのかと思いきや理不尽と対峙した主人公にとってそうするしかなかったなけなしの怒りや希望だったという痛々しい側面が見えてくる。
一方サム・ロックウェルの差別的な攻撃性は保守的風土の中で抑圧されてきたアイデンティティの悲痛な自己肯定だったりする。彼は初めて自分のセクシャリティを肯定してもらう事で相手の立場で物を考えられるようになる。
主人公にとって大切な気付きは彼女が最も蔑んでいた人物たちからもたらされる。
全員に人生があって物語は彼らの尊厳を尊重する。

登場人物たちはウィットで現実に対抗してきた。最後には報復をユーモアで笑い飛ばす。
それはとても難しいことだけど、だからこそとても大切なことだと思う。
共存を逆説できるのも喪失によって希望を際立てるのもフィクションだから許される。何かを広く届けるための映画という自意識がこれ以上なく高い。この全方位的な質の高さの根底には作り手の強固な信念が見える。

ラストシーンの豊かな余韻の中で何度も彼ら、彼女らを思い出す。
僕にとっての映画に求めるものが高密度で詰まってる。本当に素晴らしかった。

★★★★★★★★★ / 9.0点


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