FC2ブログ

映画レビュー:No.670 オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
122分 / アメリカ
公開:2013年5月25日(日本公開:2013年12月20日)
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン
ティルダ・スウィントン
ミア・ワシコウスカ
ジョン・ハート
アントン・イェルチン







ネタバレはありません。




新しい髪型のノリが3日と持たない。

▼芸術の蓄積の先にある文化に対する敬意と愛情
「あってもなくても良いものはあったほうが良いよね!」というのがジャームッシュ的世界観という印象があって、そういう事を描く彼の映画自体も僕達にとっては「人生の嗜み」という手触りを強く感じさせる。
有名無名、価値の有無に関わらず様々な表現が蓄積されて出来上がった文化に対してリスペクトや愛情を示しているのだけど、それについてきちんと自分なりの表現でアンサーするところが彼の表現者としての矜持でもあるのかな。
なんにせよ文化的な生き物で良かったなあ、という切り口から生の意味、生の豊かさを描く手つきがとても洒脱。ある種浮世離れしているのだけれどそれを嫌味なく俗世間に届けてしまうからかっこいい。それは結局僕達も映画という文化を通じて彼の美学に触れているからかもしれない。
全く違う世界に生きる人たちの話ではなく、表現を純粋で深いところまで見つめる彼の価値観が結局映画一つ取っても俗っぽく捉えるかアートとして受け取るかは人によるんだよという形で僕達の方にも伝わってくるから面白い。良い意味で観客と一定の距離を置いているところも彼がより純度の高い自己表現を目指しているようでだからこそオリジナルなのだと思う。
そりゃもちろん映画である以上観客を相手にはしているんだろうけど計算でやってる感じは無い。それで観客に届いてしまうのは彼の表現の中にそういう公約数的な部分がたまたま含まれていただけなんだろう。なんていうか観客いなくても映画撮ってそうだし。
「好きなようにやってるだけで観客にもしっかり届く」ってそれを天才って言うんじゃないのかと思うけど、僕はあんまり好きな表現じゃないのでたまたまって言っとくよ。
だから好き嫌いが別れるんだろうけど、それについても「そういうもんだ」って以上の理由を用意する気がないのがジャームッシュのすごいとこ。

▼人間的な主人公たち~諦観と享楽
ヴァンパイアという強固なジャンル性を持ち込んでも結局有限な生の在り方を映すのがジャームッシュらしい。有限というのは自分一人で見つめることのできる世界の限界であったり、時間という概念であったり。
人間より超越的な存在なのにそれについて全然ひけらかさず、常にやれやれだぜって感じのヴァンパイア像が新鮮だった。
美味い酒(極上のOマイナスブラッド)を飲んで、好きな音楽を聴いて、世界の大きさに思いを馳せる。生きることは基本辛いことばっかだけどだからこそこういう瞬間が嬉しいよねえという、生の豊かさの享受としては極めて人間臭い。
まあ会話自体は文化度が高くて何言ってるか全然わからないのだけど、多分本質的には映画観てあーだこーだ言ってる僕達とそんな変わらないんだと思う。

▼生活感というリアリティと異化効果
ヴァンパイアという設定の消化が主人公たちの生活感に繋がっているのも面白かった。忘れた頃に新しいヴァンパイア性が見れる、くらいの丁度いいバランス。
実際ジャンル的なフィクションのルールをゴリゴリに守るとそれは現実感が無くなってしまうのでそこら辺どう料理するのかっていうのはこういう映画の面白さではあるのだけど、あくまで目的ではなく世界観の手段としてやっているから「当たり前ですけど」って感じが良い異化効果を生んでる。
というか単にちょっと長生きで血しか飲めない人間、くらいの演出バランス。理屈のつかない設定は「迷信」とか言って片付けちゃう。
中盤にあるキャラクターが登場するところとか「えっ!ヴァンパイアなのに勝手に家に上がれるの!?」ってびっくりしたんだけどそれについては「縁起が悪いからやめなさい」とのこと。思い切りが良い。
僕はこの映画を他者というのは良い悪いに関わらずそこにあるもので一人ぼっちじゃないからこの世界は美しいんじゃないかという話だと捉えたのだけど、主人公たちなりの生の営みを「こういうものです」と見せるのも自分と違うから良いとか悪いとかそういう事じゃないっていう世界観のようにも感じる。少し穿ってるけど。

結局フィクショナルな設定を持ち込んでも人間的な感情を訴える映画になるのは面白かった。
僕の知り合いが「ジャームッシュの映画は何も起こらないところが好きだ」と言っていたけど、何も起こらない彼らの人生の何か起こった瞬間に豊かさを見出すジャームッシュの世界に対する視線が相変わらずとてもいいなと思う。
僕も日常からより多くを感じる人間になりたい。

★★★★★★★ / 7.0点



関連記事
スポンサーサイト

Comments 0

Leave a reply